男子校生は先生のママになりたい

振悶亭めこ

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誕生日に教えてよ

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その日、科学の授業の終わりに……
既に教室に溶け込んでクラスの他の子からは空気みたいな扱いと化していた先生が、僕の机の前に来てスッと一枚の紙切れを置いて出て行った。

「放課後、家庭科室で 坂野 智」
飾り気の無いメモ用紙に書かれていた文字はそれだけ。たったそれだけの文字列で、胸の奥が僅かにざわついた気がした。
僕の方から遊びに行く事は多いのだけれど、先生に呼び出された事は進路希望の件で二回あっただけだ。早く放課後にならないかなぁ、なんてぼんやりしていた所に苦手な歴史の授業……次は忠臣蔵の絵本でも読んでみよう、うん。

コンコンと、ドアをノックしてから家庭科室に入る。
「トモちゃん先生……?」
いつもと変わらない、季節だけが移ろい行く家庭科室。西陽が差し込みオレンジ色に染まる時間帯。
「お、来たか」
先生はどこか嬉しそうにしながら、ポットでお湯を沸かし始めて。普段、放課後に他愛も無い話をする時の定番になっている席には二人分のカップとソーサーが置かれていて……何の心境の変化なのだろう?
「トモちゃん先生もしかして、変なもの食べましたか?校庭の隅っこに生えている得体の知れないキノコとか……」
「そんなものは食べないし、食べる予定も無い。あと古谷、ドアに鍵かけておいてくれ」
「鍵……」
危ない事は無さそうなものの、先生の様子は何だかおかしい。浮かれているようにも見えた。
言われるままドアに鍵をかけて、鞄を席の側の床に置いて椅子に座る。
「楽しそうですね。何か良い事でも?」
沸いたばかりのポットのお湯をティーポットに注ぐ先生を、頬杖をつきながら眺めていた。ティーポットからはふんわりと甘い香りが漂ってくる。
「まあ……良い事、かな。買い置きの紅茶に苺のフレーバーを買い足した。飲むのは少し蒸らしてからだ」
「苺のフレーバーの紅茶ですか。トモちゃん先生は可愛いです」
「歳上男性に言う台詞では無いだろう」
僕と話している時の先生は軽口も叩くし、普通なのに。どうして普段は影が薄く、そこに悩んでいるのか不思議だと思う。
先生は向かい側に座って、そろそろ蒸れた頃合いの苺紅茶をカップに注ぐ。手慣れた綺麗な仕草にいつの間にか見惚れていた。
「茶だけじゃ何だとは思うが、そこは薄給なもんで勘弁して欲しい……」
「ええと……トモちゃ……?」
「お誕生日おめでとう、古谷。お前ももう18歳、成人年齢だな」
そうだった。僕自身、最近色々始めたりしていた事もあって忘れていた、誕生日。
「あ……ありがとう、ございます」
「どうした?微妙な顔をして」
「純粋に自分の誕生日を忘れてて……ちょっとびっくりしただけですよ。誕生日特権を使っていいなら……今日こそママって呼んで下さい」
覚えていてくれたのが先生で。それなら欲望を口に出すぐらい構わないだろう。そろそろママって言って甘えてきてくれてもいい頃なのに、先生が硬いのか、僕の力量不足か、或いはその両方か……
「呼ばねぇよ……ただな、他に何か、金のかからない事なら考えてもいいぞ」
先生はフッと笑ってデコピンをしてきた。ちょっと痛い。他に何か、か。特権は使わなければ18歳のこの時の分は一生戻って来ない。僕はカップに手を伸ばし、甘い香りの紅茶をグビリと飲み干す。
あれ、あれだよ。一つだけ思いついた。
「こ、子作りの方法を実践で教えて下さい!……トモちゃん先生なら、出来ますよね?」
流石にこれはドン引くだろうな。一瞬、家庭科室の中はシンとする。
「あー……あ、うん……教卓の下からいつものお昼寝用の寝袋、出して来い。それから、少し痛いかも知れないが我慢しろよ。実践だからな」
「はいっ」

そのまま平たく敷けば二人で眠れる寝袋を、言われるままに半分に畳んで。寝袋の隣には、脱いで畳んだ制服を。
今、僕は放課後の家庭科室の床に敷いた寝袋の上で全裸で横たわっていた。見上げるとそこには先生が覆い被さっている。
「実践、始めるぞ……本当にいいのか?古谷の誕生日だろうに」
「トモちゃん先生、不安なんですか?上手に教えてくれたなら、後でたくさんよしよししてあげますよ」
先生の頬に、髪に手を伸ばす。歳上と言えどまだ若いこの人の肌も髪も、触り心地が良い。
「古谷……何というか、少し立場の認識にズレがあるというかだな」
伸ばした手を先生の手にそっと掴まれ、手の甲に唇が落とされた。以前、本屋で触れられた時以上に、唇で触れられた部分が熱く感じる。
「最初ぐらいは俺に任せてくれ」
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