男子校生は先生のママになりたい

振悶亭めこ

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小さな約束

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トシヲは電話を切って、マフラーを巻き、コートを羽織った。
「今から、迎えに行く。家の玄関辺りで待ってろ」
智の声はまだ、トシヲの中でリフレインしていた。
とくん、とくん、とくん……
ただでさえ身体は火照ったままだというのに、心音までもが高鳴ってくる。
(どうしよう……緊張してきた。今更だけど、何でなんだろう……)
玄関で靴を履いて、後はドアを開けるだけ。家族には出かけてくると連絡済みだ。

ピンポン

呼び鈴が鳴り、トシヲはそっとドアを開ける。
「迎えに来たぞ。行こうか」
「はい……」
戸締まりをし、トシヲは智に手を引かれ、玄関先に停めてある車に案内された。
「助手席に乗って。気の利いた店とかには連れて行けないが……行きたい所、あるか?」
「ええと……ですね……」
仕事終わりの智は、昼間学校で会った時とは違う、きっちりとしたスーツの上に落ち着いた色味のトレンチコートを着ていた。トシヲは、大人しく助手席に座りその姿を珍しそうに眺めて数秒、口籠もっていた。
「行き先不明のドライブも、いいかもな。古谷からは会いたい、としか言われていない訳だ」
「は……はい。すみません……ただ、トモちゃん先生と会って、ゆっくりお話とか、したかっただけで……」
「行き先は決めたが、着くまでは秘密にしておこう。シートベルト締めておけ」
智がハンドルを握り、車のエンジンがかかり、走り出す。冬場の、既に暗くなった街並みは所々電飾や一般家庭の温かい光に満ちていた。
暫くして、住宅街の外れの坂道を登っていく。辺りは気持ち程度の街灯があるだけで、暗く、鬱蒼としているように感じられた。
「トモちゃん先生?」
「どうした?もう少しで着くからな。ションベンなら少し我慢しててくれ」
「あの……そうじゃなくて、ここは?」
街灯の照らす、砂利の敷かれた駐車場に智は車を停車させ、ドアを開けた。
「目的地。ほんの少しだけ歩くけど、割と穴場なんだ。着いてきてごらん……って、少し暗いか」

トシヲは智に手を引かれ、駐車場を抜け、薄暗い道を歩く。葉の落ちた木々が立ち並ぶ公園らしき場所。進んだ先には地上の光が見下ろせる、ちょっとした展望台のようになっていた。
智の手に力が入る。トシヲはクイッと引かれるままに、地上の光とは真逆の方向を見るような位置のベンチに座った。
「古谷、空を見上げてみろ」
言われるまま、空を見上げる。街中や住宅街から見た時よりも多く、はっきりと星空が見えた。
「……冬は空気が澄んでるからな、星が綺麗に見える。あれがオリオン座のベテルギウス、そっちがおおいぬ座のシリウス、あそこがこいぬ座のプロキオン……」
智は夜空に手を伸ばし、星を指差していく。指先の、ずっと先にある明るい星はトシヲにもはっきりと、見えていた。
「冬の大三角形、ですね」
「古谷はきちんと覚えていたんだな」
クスッと智が笑い、トシヲの頭をワシャリと撫でた。先程まで緊張しきっていたトシヲの表情までも、いつの間にか緩んでいた。
「ねえ、トモちゃん先生……僕達は、あとどれぐらいこうして居られるんですかね……」
星を見上げて、トシヲは智の手をそっと握りしめた。
「どれぐらい……って、少なくとも、星の寿命よりかは遥かに短いだろうな」
「……違います。その……僕が、卒業したら……終わりになって、お互い何も無かったかのように、元に戻ったり……」
チュッ……
不安の滲み出るトシヲの言葉を、智は唇で塞いだ。智はトシヲの肩を抱き寄せる。
「終わらせない。何も無かったようになんて、出来ない!」
「トモちゃん先生……」
「もしも、一度離れたとして、星はまた巡ってくる。今は季節じゃないから見えないが、流星群や彗星みたいに巡るものもある……非科学的なものかも知れんが、人の縁も多分そういうものだろう」
「……卒業したら、おしまいになるんじゃないかって、考えてしまって……勝手に寂しくて、不安になってて……ごめんなさい」
ぎゅっと、トシヲは智の身体に抱きついて、震える声でぽつりぽつりと気持ちを告げる。
「謝らなくていい。古谷は悪い事はしていないだろ。代わりに……そうだな、古谷が卒業した後の約束を一つ、出来るか?」
「内容次第です」
「次に流星群の来る季節、またここで、俺と一緒に星を見る事」
「はい!約束します、トモちゃん先生」
チュッ……
今度はどちらからともなく、口付けを交わして。トシヲは智と目が合うと、すぐに目を逸らし智の肩に顔を埋め、悪戯を白状するような、少しだけ言いづらそうにしながら、口を開く。
「あの、ですね……これは本当に僕が悪かったと、思っているんですが……家に帰ってから、お風呂に入ったんですよ」
「確かに、髪の毛から洗いたてのいい匂いがするな」
「それで……その時、その……手淫をしてしまいまして……」
「古谷も男の子だ、健全な証拠だろ」
智はトシヲの身体を抱きしめたまま、時々背中をぽんぽんと軽く叩いている。
「そこで……ですね。トモちゃん先生の事を思い出しながら……してました。で、でも、一人で指を入れたりしても物足りなくて、今もずっと……」
「いやいやいや、ちょっと待て古谷!」
ガシッと智の両腕が、トシヲの肩を掴み、腕の長さ分の間合いを取った。


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