たぶん荘、きっと荘〜道祖神大家とイチャラブなんてあり得ない!?〜

振悶亭めこ

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第五章:幼き恋情

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 あれから暫くの間、和也はモヤモヤした気持ちを抱え続けたまま過ごしていた。答えは出せないまま、時間だけが過ぎていく。

「今日は少し、出かけてくる。仕事の話だ、家の事は任せたぞ和也」
 ある朝、白亜さんは言った。綺麗に着物を着付け、長い白髪は着物と同色のシュシュで束ねて、持ち物はどこで買ってきたのか分からないハンドメイドらしきバッグに入れて。下駄を履いて出かけて行く様子を、和也は玄関から見送った。
 和也がこの古民家に住み込むようになって、恐らく初めての、白亜さんの居ない日。夕方までには帰るとも聞いていたが、胸がチクリと痛むような、寂しさを感じていた。
 仕事なら仕方ない。例えば相手がOL等であれば、週5でこの状態が当たり前だろうに。思考を掻き消すように、和也は家事に力を入れた。

 あの不動産屋に行くのはいつぶりだろうか?出来れば行きたくないのだが、今回ばかりは致し方ない。
 家を出て、駅から電車で二駅。そこから少し歩いた場所にある、レトロな佇まいの店舗。看板には『西村不動産』の文字があり、窓辺には間取り図が大量に貼り出されていた。
 やはり、引き返そうか?入り口で少し悩んでいた時、ドアが開けられた。
「お待ちしておりました。さあ、どうぞこちらへ。募る話もありますし」
 ドアを開けた、大柄な身体を上品なグレーのスーツで包み、人の良さそうな笑みを浮かべる初老の男。
 男に肩を抱かれ、店舗の奥の小さな応接室に通され、ソファに座らされた。この男は昔から距離感がバグっているのかと思うほど近く、スキンシップが激しい。他にも細々とした事はいくらでもあるが、我はこの男、西村秀雄にしむらひでおが少し苦手である。
「まずは、これを。今空いているうちの物件一覧と、各部屋の間取り図だ」
 バッグからファイルを取り出して、ローテーブル越しに手渡した。秀雄はファイルを受け取り、内容を確認し頷く。
「和也を入れた部屋が空いたんですね。あの子、退居した後どうしたか知ってますか?」
「本人に聴くのが一番かと。更新か退居かを迫った時は、怒鳴り散らして大変であった」
 西村秀雄。和也の父でもあるこの男。和也を当時空いていた、たぶん荘に突っ込み、更新か退居をするまでの二年間、和也の代わりに家賃を支払っていた男。
「あー。またまたァ、本当は知っているんでしょ?可愛い息子の行く末は、父親として気になるんですよ、私も」
 白々しい口調にうんざりする。事故物件の事故部分のようだった、入居当時の和也を放り込み、金だけ与え続けていたのはお前だろうに。と、言うか何故秀雄は我の隣に座ってくるのだ?向かい側のソファに一人で座れば広かろう?
「直接本人に……」
「アラミタマのクロアさん、という動画配信者を、白亜さんはご存知ですか?神秘的で美しく、淫らな青年で、白亜さんにそっくりで……もしかしたら、白亜さんご本人なのではと、私は思いましてね、ええ」
「……何が、言いたい?」
 話をしている間にも、秀雄は片腕で白亜の肩を抱き、片手で着物越しの太ももを撫でてくる。普段の秀雄の過剰なスキンシップかと、白亜は受け流そうとした。
「クロアさんの動画でアシスタントをしている、プレイ中はぬしさま、と呼ばれている子が、お面を付けてますけど、和也にそっくりなんですよ。声であの子だと、私には分かりました」
「それが事実と仮定したとて、息子を見放した父親が……とやかく言える立場では無かろう」
 白亜の肩を抱いている秀雄の腕が、着物の上から胸元を弄る。
「……んっ、んうぅ……っ」
「少し弄っただけで、いやらしい声が出そうになっている。白亜さん、あれはやはり事実なんですねェ」
 秀雄の手が、白亜の着物の襟を掴み、ガバッと白く華奢な肩までもが露出する程、大きく開いた。身体を抱きしめるように腕が回され、淡い朱色の滲むふっくらとした白亜の乳首に、緩やかな動きで指先が這い回る。
「……っ、だから……っんんぅ、何が、言いたい……っあぁ……」
 目元にうっすら涙を浮かべ、白亜は秀雄をキッと睨みつけた。
「私は息子……和也の成長を、白亜さんの動画を通して見てました。和也は女癖が悪いでしょう?お相手を消耗品のように次から次へと。示談金だって、何人に払ったのか分からないレベルで……それが、動画アシスタントで出演するようになってから、ピタリと止んだ」
 口先では愛おしげに和也の話をしながら、秀雄の指先は白亜の乳首を摘み、指先で弄ぶ。白亜は身体を捩らせて、秀雄の腕から逃れようと試みた。
「……っあっ!んんんっ!ふーーーっ」
 ダメだ。身体が火照って、欲しくなってしまう……ただの過剰なスキンシップだと言うのに。ここで、秀雄相手に快感を覚えてはいけない!
 白亜はぎゅっと目を閉じて、溢れてしまう声を殺そうと着物の袖を噛み、堪えていた。
「白亜さん、私は感謝しているんです。和也が白亜さんの元に、まだ居るならば。安心して和也のこれからの事をお願いしたいと思ってます」
 視界が、揺らぐ。秀雄の手により、白亜はソファの上に組み敷かれた。秀雄の唇が、白亜の首筋に触れ、ちゅうっと強く吸い上げた。赤い、小さな花びらのような痕が、白い肌に残された。
「んんんーーーっ!ぁっ……んむぅ」
 秀雄の手が、着物地をかき分けて直接白亜の下肢を撫で上げた。
「あぅっ、んんぅ!止めろこの不敬者めが!」
 白亜の叫び声に、秀雄は手を止める。あっさりと、組み敷いていた身体の上から退いた。その顔には、人の良さそうなにこやかな笑みが浮かんでいる。
「なんだ。白亜さんは嫌ならきちんと止めろって言えるんじゃないか。言ってくれないと、私は分からないからねェ」
 秀雄の言葉が、白亜の中で和也の言葉と重なった。そんな部分で親子だと思わせてくるのは、ズルい。
 乱れた着物と呼吸を整えながら、今更のように白亜は恥ずかしくなった。
「……これだから、人間は」
「そんな、人間だからさ。成長に気付けるのも。お詫びに私から、いくつか手渡そう。和也と、白亜さんへのヒントさ」
 横の棚から何かを漁りながら、秀雄はヒント、というものを口頭で告げた。

1.白亜は何故、秀雄の行為を拒んだのか?理由を考えてみる事
2.次に和也に会った時、和也は白亜の変化に気付けるか?気付いたなら、今された事を全て話す事
3.最後に、お互いの気持ちを話し合う場を作り、確かめあう事

「所で白亜さん、蕎麦でもたべていきませんか?出前とりますよ」
「要らぬ。我は帰る」
「最後に一つ。和也が働く気になった場合には、連絡をするように伝えて下さい。バイト先の斡旋位なら、出来ると」
「……承知した」
 ついでに秀雄からお布施だと言われた、どのぐらいの額が入っているか分からない分厚い封筒を受け取った。白亜は万札数枚を財布に移してから、バッグに放り込んだ。
 西村不動産を後にする。やはり我はあの男が、少し苦手だ。
「まだ帰るには早い……気晴らしに、本屋にでも寄るとしよう」
 この後、白亜は本屋でマニアックなエロ本を大量購入して帰り、部屋でじっくり読む事にした。
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