壊れた世界できみとつくる理想郷

麻路なぎ

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 十二月二十一日金曜日。
 今日、カナタは終業式で帰りが早い。
 なので僕は仕事に行かず、家で武器を引っ張り出していた。
 僕がもつ武器――それは日本刀だ。
 武器の所持になぜか厳しいこの日本で手に入る、ごく一般的な武器だ。
 今でも職人がいて、技術を継承している。
 けれど刀を使うものは少ない。
 海物と対峙するのには飛び道具の方が役立つ場面が多いからだ。なんといっても相手は海の生物。刀は近接武器だし、海物は飛び道具を使わないため、距離をとって攻撃できるクロスボウを使う者が多かった。
 僕もクロスボウを使うことはあったけれど、不老不死になってからは怪我の心配も死の心配もなくなったので刀を使う機会の方が多い。
 長さ三十センチほどの短刀と、六十センチほどの脇差。
 室内での戦闘が多いので、あまり長い刀を使うことはなかった。
 カナタを引き取ってから十二年。
 刀を最後に使ったのは、カナタの両親を殺した日だ。

『僕をひとりにしないで』
 
 必死な顔で僕にしがみついてきた幼いあの子が、どんな想いで僕にそう告げたのか今でもわからない。
 本来なら、国の施設に入るべきカナタが僕から離れなかったため、担当者と相談し、僕の部屋に泊めた。
 そして今に至る。
 カナタの前でこの刀を出したことは、あの日から一度もなかった。
 隠していたけれど本当にカナタがハンターになりたいのなら話は変わってしまう。
 これを目にすることで、彼のトラウマを呼び起こさなければいいけれど。
 脇差を鞘から抜いて、僕は刀身を見つめる。
 刀身に僕の顔が映る。この刀を手にした日から変わらない僕が。
 刀の手入れを済ませた頃、そろそろ昼食の準備をしうと立ち上がった時、玄関からバタバタと足音が聞こえてきた。
 ここは集合住宅だ。
 走るのはご法度だと言っているのに。
 どうしたのかと思いつつ部屋を出るとリビングにカナタがいて、彼は満面の笑みを浮かべて僕に一枚の紙を見せてきた。
 そこに書かれていたのは、「合格」の文字だった。

「ハンター試験受かった!」

 声を上げたカナタは、そのまま僕に抱き着いてくる。

「やったー。これで俺、音耶と仕事できるんだー!」

「……あぁ、うん。そうだね。おめでとう、カナタ」

 お祝いの言葉を伝えるけれど、内心複雑だった。
 できればカナタには普通の人生……ハンターなんていう危険な仕事からは遠い仕事についてほしかった。
 ルシードを失った時のような思いをしたくはないから。
 けれど本人は嬉しそうだし、事実彼の背中に黒い翼が見えている。
 それはカナタの感情が昂ると現れるものなので、彼は今、嬉しさのピークなのだろう。
 大学にいくかわりにハンターになることを許す約束もしているので、僕は自分の想いを押し殺して彼の背中に手を回す。

「よかったね、カナタ」

「うん。超嬉しいよー」

「それは見ればわかるよ……羽根、でてるから」

 僕が言うと、カナタはばっと僕から離れて背中へと視線を向ける。
 そして恥ずかしげに笑い、頭に手をやった。

「うーん、こればっかりはどうにもならねえんだよな。超嬉しかったりとか、超悲しかったりすると出てきちゃう」

「あぁ、そうだね。カナタのその姿見てると天使みたいでかっこいいよ」

 そう、素直に感想を述べると、カナタは目を見開いた後、嬉しそうに笑って言った。

「そう言われるとめちゃくちゃうれしい。でさ、講習なんだけど」

 カナタは翼をそのままにして、書類をテーブルの上にひろげた。
 カナタの世界が少しずつ変わっていく。
 それに伴い僕の世界も少しだけ、違う色になっているような気がする。
 僕の時間は、相棒のルシードを失った日からとまったままだった。
 けれど、十二年前、カナタを救った日から、僕の世界に彩りができたと思う。
 百年以上生きてきた僕にとってこの十二年なんて短いものだ。だけどとても濃い十二年だった。
 嬉しそうに講習の事を話すカナタの顔を見つめ、僕は未来に少しだけ思いをはせる。
 あとどれだけの時間、カナタと共に過ごせるのだろうか。
 人の平均寿命は確か、六十年ほどだ。そうなるとあと四十年ほど。
 僕はこのまま、カナタと共にいていいのだろうか。
 できれば離れたいと思っていたのに。
 だって、目の前で失いたくないから。
 それは僕のわがままだろうか。
 それでも……もう少しだけそばにいたい、と思うのも僕の贅沢な悩みかもしれない。

「……音耶、どうしたの?」

 僕の肩にそっと手を置き、カナタが僕の顔を覗き込んでくる。
 僕はハッとして彼を見て、ぎこちなく笑い言った。

「何でもないよ。そっか。カナタ、二月になれば休みだもんね」

 ちゃんと話を聞いていたアピールをすると、カナタは頷く。

「うん。だからその間に車の免許通って、並行してハンター講習受けに行きたいなって。ちょっと大変だけど。どうかな?」

「あれ、免許って、三学期の期末終わらないと通えないの?」

 僕の頃、そんな校則があったような気がする。
 カナタは不満そうな顔をして頷いた。

「そうなんだよ。だから二月にならないと、車の免許とりに通えなくって」

「そっか」

 免許取り立てで車の運転をして死亡事故、というのは今でもあるからだろうか。
 今の車は大してスピードが出ないのに、初心者が事故を起こすのは昔と変わらないと言われていた。

「まあ、通えるうちに通った方がいいよ。車の免許はあったほうがいいし」

「だよね。だから、期末終わったら両方通っていい?」

 僕の様子を伺うように言うカナタに僕は微笑み頷いた。

「いいよ。来月、手続きしよう」

「やった。ありがとう、音耶」

 言いながらカナタは、僕に抱き着いてきた。
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