アルテミス雑貨店~あやかしたちの集まる不思議な店

麻路なぎ

文字の大きさ
5 / 5

5 仕事内容

しおりを挟む
 面接をした部屋に案内されて、甲斐さんが私に飲み物を用意してくれた。

「紅茶で大丈夫かな」

 と言い、目の前にケットシーのイラストが描かれたマグカップが置かれた。

「ありがとうございます」

 今気が付いたけど、この部屋、コーヒーマシンや湯沸しポットがあるんだ。
 昼間通された時はお茶も出されなかったなそういえば。
 甲斐さんは私の向かい側に座り、微笑んで言った。

「仕事内容だけど、レジと商品整理、補充かなあ。透さ……笠置さん、あんまり表に出てこないから僕ひとりじゃ大変なんだ」

「何で表に出てこないんですか? 噂では確かに超レアとは聞きますけど」

 それが不思議なんだよね。
 このお店、そこそこの広さなのになんで表に出てこないんだろ。だって店長でしょ?
 甲斐さんは苦笑いを浮かべて、梟が描かれたマグカップを手にする。

「ちょっとね、笠置さんあてに特殊な来客が多くて、それでなかなかお店の方に顔を出せないんだ。それでバイトを募集することになったんだけど、なかなか笠置さんがオッケー出さなくて決まらなかったんだ」

 そんな状況で私がなぜ採用に至ったんですか。
 不思議で仕方ないんだけど、このお店に来て不思議だらけだな。

「よく私が採用に……」

「お銀さんも気に入ったみたいだから」

 お銀さん? って誰?
 きょとん、としていると甲斐さんは慌てて言った。

「猫の……さっきずっと一緒にいたでしょう? あの猫さんがお銀さん、て言うんだ」

 確かにあの猫、ずっと一緒にいたな。
 でもなんでだろ?

「お銀さんに気に入られるのが条件みたいなところあるから。初めてじゃないかな、お銀さんに気に入られる人」

 猫に気に入られるのが条件てどういうことよ。
 まあでも、早く仕事決めなくちゃってなっていたから助かったけど。

「そう、なんですか……」

 あの猫ちゃんの機嫌、そこねないようにしないとなのかな。そういえばさっきもずっと一緒だったけど、いつの間にかいなくなってたな。
 どこに行ったんだろ?

「色んな噂が流れているみたいで、おかげでお客さんは増えていて売り上げも上がってるんだけど、笠置さんはどんどん主に出てこなくなるし。僕は検品もあるから忙しくって」

「マジですか。あの、店長さん、何されてるんですか……?」

 遠慮がちに尋ねると、甲斐さんは言った。

「商品の手配は笠置さんがやっているよ。売上データから何を仕入れるかはちゃんと考えているからね」

 そうなんだ。
 あれかな、店長さんは基本裏方で、接客関連は甲斐さんが一手にやっていたのかな。それってさすがに大変だよね。休むに休めないもんねえ……

「人が増えてよかったですよ。お店の休みの日、増やそうかって言っていたくらいだから」

 そんな状況なのになんで今までバイトを採用しなかったんだろ……?
 独特の採用基準があるみたいだし、なにかそこに至れなかった事情、あるんだろうなあ……

「とりあえず私、明日から来ればいいんですよね?」

「あ、はい。そうです。レジと商品補充だけだからそんなに難しいことないし。色々と驚くことあるかもしれないけど害はないから、よろしくお願いします」

 そう言って、甲斐さんは頭を下げた。


 暗い夜道を、甲斐さんに送ってもらって家に着く。
 ひとり暮らしのアパートはとても静かだった。
 私は荷物を放り投げ、ベッドに横たわり天井を見つめた。
 なんだか変な日だったなあ……
 いつの間にか落とした履歴書、ひきこもりの店長に、不思議な声。それに変な双子に、猫。
 今日は不思議がいっぱいだ。
 とりあえず生活費は稼げることになってよかったけど、大丈夫かな、あのお店。
 私はスマホを手にして、あそこのバイトを教えてくれた友達、ほのかにメッセージを送った。

『雑貨店にバイト決まったよー』

 するとすぐに返信があり、

『嘘? ほんと? やっぱ天然だから?』

 という誠に失礼なメッセージが来る。だから私のどこが天然だと問い詰めたいんだけど。

『天然とか関係ないと思うよ? なんか変なことがいろいろあったけど……店長はちょっと変わった人だけど、甲斐さんは普通っぽいし』

『そうなんだ! よかったね、決まって。甲斐さん、かっこいいよねー。でも彼女いないし付き合ったことないって言ってて』

 なんていうメッセージが返ってくる。
 なんでそんな情報知ってるんだと思いつつ、内容に驚く。
 あんなに見た目いいし優しそうでいい人なのに付き合ったことないって意外。何かあるのかな?
 まあ、そんなの私が気にすることじゃないか。
 大学を卒業するまでの付き合いだもんね。

『別に私、彼氏作りたいわけじゃないからどうでもいいよ、そんな話』

『あはは、そうだよねー。美羽ならそう言うと思ったからすすめたんだ。たぶんあそこの面接受ける人、皆店員さん目当てだからさ』

 あーそれは充分ありえそうというか、それしかないだろうな。
 私はそんなに興味ないけど、彼らと付き合える可能性があるなら面接受けちゃうかもしれない。

『明日からバイト行くことになったんだー』

『そうなんだ! よかったね、決まって! 明日話聞かせてね!』

 と返ってきて、私はスマホを枕元に投げた。
 明日からバイトか。
 飲食店の目の回る忙しさに比べたら続けられそうな気がする。
 私はベッドから起き上がり、お風呂へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...