アルテミス雑貨店~あやかしたちの集まる不思議な店

麻路なぎ

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4不思議な出来事

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 一度家に帰った私は、早めの夕食をとった後六時半過ぎに家を出た。
 まさかバイト決まるなんて思わなかった。だって今まで誰も採用されてこなかったんでしょ?
 何が響いたんだろ……
 不思議に思いながら私はお堀端の道を歩いていた。
 家から歩いて十五分ほどで雑貨店に着く。
 一か月ほど前は、このお堀端を桜が咲いていてライトアップで綺麗だったな。
 そう言えば、四月にここを通りがかった時、

「河童がいるー!」

 って、子供たちが騒いでいたような?
 あれ、なんだったんだろ。
 河童なんているわけないのにな。
 そう思いながらお堀へと視線を向ける。
 だけどそこは暗く、何も見えない。
 確か魚や鴨がいるし、亀もいるはずだけど水音すらしない。

 ――チャプン

 あれ?
 音がした気がして私は足を止める。
 お堀を覗くけれど何も見えない。気のせいかな?
 首を傾げて私は道を急ぐことにした。

 ――なんだよ、あいつの女かよ。

 そんな声が聞こえた気がして、私は驚き辺りを見回す。
 何人もの大人たちがスマホ片手に歩いていて、辺りなんて誰も見てやしないし喋りもしない。
 何だか異様な光景だけど……今の声、誰だろ?
 きっと歩いている誰かだろう、と思い込み、私は早足でその場を去った。
 アーケード街の入り口にある雑貨店を照らすのは、淡い光の照明だった。
 まだ十九時前だけど人通りはさほどない。
 皆足早に、スマホを見つめて歩いて行く。
 アーケード街の多くの店はシャッターが下りていて、寂しい感じがした。
 ドーナツ化現象っていうんだっけ。昔はきっと賑わっていたんだろうけど、土日でもこの通りは人通りが少ない。
 店に入ると、猫が出迎えてくれた。

「にゃー」

 金色の大きな瞳と視線が絡む。
 大きな大きな三毛猫だ。
 ここの飼い猫だろうか?

「あぁ、いらっしゃい」

 奥から優しい声が響き、甲斐さんが顔を出す。
 さっき来たときは女性客が何人もいた店内、今は私たちしかいない。
 私は頭を下げて、

「こんばんは」

 と言った。

「少し待ってて。片付けたら少し話しよう」

「わかりました」

 私は甲斐さんの言う片付けが終わるまで店内を見て回ることにした。
 流行りのケットシーグッズに梟グッズ。ハンカチやお弁当箱もあるけれど妖しげなグッズも異彩を放つ。
 タロットに、水晶玉。どくろにあと何だろう……魔導書って書いてあるけど、魔導書って実在するんだ。
 感心しつつも若干呆れながら店内を見て回っている間、猫はずっと私の跡をついてきていた。

「にゃー」

 と時々鳴きながら。
 何かを言っているようにも聞こえるけれど、猫だし、喋るわけないよね。

「甲斐」

 店の奥から、低く響く声が聞こえてきた。

「あ、とお……笠置さん……それに一葉君と二葉君」

「甲斐さん、僕たち帰るからまたね」

「僕たち送っていくね。ほら、行きましょう、狐様」

 狐様?
 不思議に思い声がした方に行くと、あの双子の背中が入り口の扉をくぐるのが見えた。
 それにうっすらと何か見えたような気がしたけれど……気のせいかな?
 狐様、て言っていたけどあのふたりしか見えないような……?
 なんだろう、今日は不思議ばかりが起こる。
 今までこんなことあったかなあ。

「甲斐」

「あ、はい。なんですか」

「後は俺が片づけるから、お前は彼女を頼む」

「わかりました。じゃあ、先に帰りますね。とお……笠置さん、ちゃんと夕飯食べてくださいね。それ以上痩せると結衣さんにまた怒られますよ」

「わかってる」

 そんな声がした後、猫が一声鳴き、私を導くかのように店の奥へと歩き出す。

「あ、お銀さん」

「にゃー」

「あ、杉下さん」

 カウンターから出てきた甲斐さんが、エプロンを脱ぎながら微笑む。

「仕事について説明するから、奥に来てくれるかな」

 言われて私は頷き、猫と一緒に甲斐さんの後を着いて行った。
 
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