【本編完結】偽物の番

麻路なぎ

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★番外編01 運命の番 side 千早

運命の番22

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 七月十六日土曜日。
 俺は、久しぶりに外に出た。
 日々暑さがまし、半袖が欲しいとやっと思い始めた。
 駅近くのデパートに向かい、服を買ったあと俺はジュエリーショップに立ち寄った。
 特に目的があって覗いたわけじゃないが、指輪のコーナーで目が留まる。
 プラティナや金が多い中、ジルコニウムやチタンと言った、アレルギーフリーの指輪が目に留まる。
 内側が発色していて、こんな指輪があるのかと思って見ていると、女性店員に声をかけられる。

「指輪、お探しですか?」

 二十代半ばくらいと思われるその女性店員は、笑顔で言い、指輪の説明をしてくれる。

「こちらの指輪、金属自体が発色してるんですよー」

「金属が発色?」

「そうなんですよー」

 そして、女性は指輪について説明してくれる。

「長く身に着けていると、人によっては色が変わったりするんですよー。なんだか素敵だじゃないですか?」

 説明を受けたジルコニウムやチタンの指輪は、さまざまな色に発色させることができ、身に着けている間に色が変わっていくらしい。
 それは興味が惹かれる。
 なにげなく覗いただけだったが、琳太郎が言っていた、プレゼントがある、と言う言葉が頭の中に響く。
 さすがに指輪は重いだろうか。
 指輪そのものよりも、色が変化していく、という話に心が惹かれる。
 ――琳太郎なら、どんな色に変わっていくのだろうか?
 いろいろ説明をされ、名刺まで渡されて俺は、その店を後にした。
 十八日まであと二日。あのあとから俺は琳太郎と連絡を取っていない。
 さすがにあんな苦しそうな声を聞いたら、電話する気は起きなかった。
 いったい何を話すのか。
 考えると気分は落ち着かなくなってくる。
 だから今日、久しぶりに外に出て買い物に来たのだが。
 俺の心模様と同じように、空は荒れ、今は雷が鳴り響いている。
 このデパートからマンションまで大した距離ではないが、さすがに土砂降りの中歩く気にはなれず、デパートの中で時間を潰すことにした。
 この時間、琳太郎は駅の本屋でバイトをしているだろう。
 だから俺は、その本屋には近づかないようにしていた。
 会いに行こうと思えば今すぐにでも行ける距離。けれど今は雨のカーテンが俺の行く手を阻んでいる。
 こういう雨は、しばらくすればやむことが多い。
 空が光り、すぐに地響きのような音が周囲に鳴り響く。
 時刻は十三時前。これならここで昼食を食べて行こうか。
 そう思い、俺は、デパートの入り口から中に引き返した。


 そして、七月十八日の朝。
 忌々しいほど空は晴れ、気温が高い。
 これは今日、かなり暑くなるだろう。
 そう思い、俺はマンションを出た。
 大学に着き、講義が行われる教室に行くと、各務が手を振ってくる。

「おっはよー、秋谷」

「あぁ」

 とだけ答え、俺は各務の後ろの席の椅子に腰かける。
 すると、各務は俺の方を振り返り、顔をまじまじと見てきた。

「なんか、いいことあった?」

 と言い、各務は笑う。
 いいこと。
 あったと言えばそうかもしれないし、違うかもしれない。
 俺は、頬杖をつき各務を見て言った。

「べつに、普通だけど何でそう思うんだ?」

「え、なんか表情が明るいから」

 表情が明るい。
 そんな自覚はないけれど、そうだろうか。
 首を傾げると各務はずい、と身を乗り出してきて言った。

「ぜってー顔つき違うって。いいことあったんだろ?」

「べつに、普通だっての」

「えー? だって、いつもならノート出してらくがきし始めてるのに、今日はしてねーからさ」

 言われてみればそうかもしれない。
 最近、席につけば無心でらくがきすることが多かった。
 各務のやつ、そんなところまで見ていたのか。

「そうかもしれないけど、別に、深い意味はねえよ」

「そっかー。でも、この間より顔、明るそうだなと思ったんだけど」

 俺はそんな各務の言葉を聞きながら、講義で使うものをトートバッグから取り出す。
 
「今日、ちょっと約束をしてるから」

 とだけ呟き、俺は自由帳を開く。
 それを見た各務はノートを覗き込み、

「あれ、人物絵ばっかじゃん。これ、学校? 同じ人……」

 と言われてしまい、思わず俺は自由帳を閉じた。
 なぜだか気恥ずかしい。
 すると、各務は目を輝かせ、

「あ、もしかしてこれ、例のこい……」

「各務、ほら、先生来てるぞ」

 言っている間にチャイムが鳴り響き、各務は慌てて前を向く。
 慌ただしいやつ。
 そう思いつつ俺は、自由帳をバッグに放り込んだ。
 今日の夜、琳太郎に会う日。
 何を話すのだろうか、何を言えるだろうか。
 そう思うと、講義の声は殆ど耳に入ってこなかった。
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