極上の蜜~みかどの寵蜜~

奇埼伊利

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第1章 視線の彼方

【第1章:視線の行方】

黒光り大理石調の床が、冷たい光を無慈悲に反射していた。
高天井の下、中央には黒革のベッドと、硬質な黒革ソファがひっそりと佇んでいる。
冷たいグレーと黒のモノトーン空間に、藍色のアクセントだけが妖しく光っていた。

「ここは……どこ……?」

お腹の奥を鋭く刺す痛みに、思わず手が伸びた。腹部に巻かれた包帯に触れると、熱い傷の記憶はないのに、胸の奥にぽっかり空いた穴の違和感だけが渦巻いている。
指先が震え、シーツを握りしめた。逃げたいのに、足が動かなかった。

その時、電子扉の錠が冷たく鳴る音がした。
視線が吸い寄せられる。そこに立っていたのは、二メートル近い巨躯の男だった。

執事服に包まれた獣のような筋肉質な姿。その体格とは裏腹に、深海のような優しい瞳を持っていた。
厚い胸板から漏れる声は、低く染み込むような落ち着いた響きだった。

「やっと……目覚めてくれたのですね」

凍えた心にそっと溶け込む言葉だった。緊張で張り詰めていた肩が、わずかに解けていく。

「みかど様にお伝えします。少々お待ちを」

その響きに胸の奥が疼いた。名前も思い出せずにもがく僕の心を、静かに揺さぶる。

「僕は……誰…?」

声は震え、頭の中は濃い霧に覆われて白い闇が広がっていた。
執事服の男の視線が、僕の傷跡を舐めるように這う。ぞくりと背筋が冷えた。

彼は困ったように微笑み、首を振った。
「それは……みかど様に」

──ガチャン!

突然、乱暴に扉が開かれた。
黒い嵐のような男が、風を切って飛び込んでくる。

みかど。

長身で完璧な骨格。切れ長の瞳は漆黒の刃のように鋭く、流れる黒髪は闇そのものだった。
それでも、僕の腕に感じる温もりは信じがたいほど優しかった。
だが、胸の奥で、かすかな警鐘だけがかすかに響いていた。

「蜜……!」

次の瞬間、力強い腕に包まれ、身体がふわりと宙に浮いた。
抱き上げられた瞬間、伽羅の甘く深い香りが鼻腔を満たし、頭がクラクラする。

みかどの鼓動が、僕の胸に静かに響いた。
「このまま目覚めないと……気が狂いそうだった…」

その声を聞いても、僕の震えは止まらなかった。

この人──直感が叫んでいた。

この人のものになりたい―永遠に―

何も思い出せない心の中で、知らず知らず運命の鎖が音を立て始める。

力強い胸板が頬を包み込み、鼓動がドクン、ドクンと直接伝わってきた。
熱く硬い温もりに、信じがたい安心が秘められている。

「蜜……よく耐えたな」

耳元で囁かれる声は低く甘く、甘い毒のように心に染みわたった。

──安堵。

記憶のない僕にとって、初めての「安堵」という感覚だった。

お腹の傷跡の疼きも、頭の霧も、今は遠く霞んでいく。
この人なら……この腕の中なら、大丈夫だ。

本能の囁きがそう告げていた。理性ではなく、もっと深い場所から。

初めて自分に目を向けた。ベッドの向こう、壁面に備え付けられた大きな鏡に映っていたのは──。

薄く透けるネグリジェに包まれた、裸のような僕だった。
下着はわずかな布切れ。色白の肌に、大きな黒い瞳が潤い、漆黒の髪がかすかに揺れていた。
薄く赤く色づいた唇が、かすかに震えている。

中性的で華奢な身体。腹に光る大きな傷跡が、妖しく痛々しかった。
鏡の中の青年は、羞恥と震えで頬を赤く染めていた。

みかどの指が、そっとネグリジェの裾を少しだけ持ち上げた。
透けた布地が滑り落ち、白い太腿が静かに露わになった。

黒革ベッドの中央で、僕はみかどの腕に抱かれ、逃げ場を失っていた。
冷たい空気が敏感な肌を撫で、細かな鳥肌が立つ。

「蜜。裾をめくれ」

『僕は……蜜……?』

「あっ……でも、その下は……下着だけみたい…です…」

心の声は震えていた。小さな薄手のシルク生地。細い紐が身体をかろうじて覆い、肌の一部が透けて見えている。
触れられただけで敏感な部分が反応しそうで──。

みかどの鋭い瞳に射すくめられ、抗うという選択肢は最初からなかった。
恥じらいと震えを隠せず、自分でゆっくり裾を持ち上げる。

紐が食い込む太腿の内側まで晒され、熱い視線に肌がじんじんと疼いた。
下腹の奥が、理由のわからない熱でむず痒くなる。

「見ないで……なんでこんな……」
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