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1章
土の塔
しおりを挟む早朝目を覚ましたライルは鼻に違和感を覚えた、未だに何かにつままれているような感覚だ…。
何度か鼻を触ってやっと違和感が消えてから外に出るとヴィーリオが仁王立ちしていた、
人指し指で腕を何度も叩いている事からかなり前から待っていたのだろう…。
「 遅 い 」
「すまない…。」
ヴィーリオが加わり里の入り口に行くと二人が待っていた。
「俺らも行くぜ、
手ぶらで帰ったらどやされる。」
デインと虚も加わり里を出る…。
「嬢ちゃんさっきから鼻触ってるけどどうした?」
「いや、
何か鼻を誰かにつままれているような感覚でな…。」
デインとライルの会話を前で歩いている虚が聞き隣で笑いをこらえているヴィーリオを横目で見る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
塔に入ると中は暗闇でヴィーリオですら内部を把握できないでいた。
「なんかすげぇ熱くねぇか?」
「私もそう思うがこう暗いと何がどうなっているのかわからないな…。」
なるべく動かないようにしていたが誰かが倒れる音がした。
「痛てぇ!
なんかつまずいた!?」
やはりデインが倒れたようだがそれよりもライルが別の事に気づく。
「今【カチ】って聞こえなかったか?」
そう、
デインが倒れた音と一緒にスイッチが押されるような音がした…。
「気のせいじゃないぞ、俺も聞いた。」
突如入ってきた扉が閉まり明かりがつく、
誰がどう見てもすぐにわかる
閉じ込められた…。
「わりぃ!!」
ヴィーリオが魔本を構える。
「溶岩に突き落とされるか高圧電流をくらうか選べ…。」
「手伝うぞ。」
虚ろも無表情に武器を構えデインの命が危うくなるがライルが間に入り二人を止める。
「や、やってしまったものは仕方ない!
ともかく最上階に向かおう!!」
舌打ちをして本をたたむヴィーリオと渋々武器をしまう虚にデインが安堵の息をはく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
塔の最上階につくとそこにはゴーレムが2体と奥には5メートルはある土の魔神がいた。
「ギデオンが倒されたと感じたがまさかお前の仕業だったとは…。」
地の底から響くような不気味な声が魔神から発せられる。
「挨拶も能書きも要らん、
何を企んでいる…?」
魔神、ラム・ロゥが大声をあげて笑う。
「知れた事!
貴様のような魔族の面汚しを引きずり下ろし私が魔王になる!!
そして魔族の栄光を取り戻すのだ!!」
その言葉に虚がヴィーリオを見る、
彼は正体に気づいたらしいがデインは首をかしげたままだ。
「なるほどいかにも単純な思考回路だ、
正直羨ましいぐらいにな…。」
だが、と、嘲るような笑みを浮かべる。
「やめておけ、【烈火のアヴィヨン】ならともかく貴様は大勢の上に立つ器ではない。」
「アヴィヨンだと!?
あんな小娘に王座は渡さん!!
お前を血祭りにあげたら次はやつだ!!」
激昂したラム・ロゥがゴーレムをけしかけるがヴィーリオが一瞬で消し去る。
「貴様の周りには泥人形か脳筋しか集まらんのか…。」
うんざりしたように言い放つヴィーリオにラム・ロゥが襲いかかるがデインが斧で腕を弾き飛ばす。
「よっしゃ!」
「油断するな、来るぞ。」
土のつぶてを飛ばしてくるがそれはヴィーリオが魔防壁で防ぐと一人足りないことに気づく。
「やつはどこに行った?」
ラム・ロゥがよろめきその背後から虚が襲いかかっていた…、
あのつぶてを全て避けたのか無傷だ。
「すげぇ…。」
「感心している隙があるなら追撃しろ。」
ライルはつぶてが止んだ瞬間魔防壁から飛び出し援護に向かった、デインが二人に強化をかけ攻撃に加わる。
「人間ごときにこの私が…!」
かなり時間はかかったがラム・ロゥの体はボロボロだ…。
「終わりだ。」
虚が武器を投げるが笑って簡単に避ける。
「テメェ…なに笑ってやがる!!」
「私が何の策も練らずに貴様らを塔に入れると思っていたのか!?」
ラム・ロゥが紫色の宝玉を出すとヴィーリオの顔つきが険しくなる。
「【魔神の心臓】…、
手に入れるのに苦労したがこれで我が力は完全なものになる!!」
宝玉から禍々しい魔力が溢れラム・ロゥに流れこむ。
「【魔神の心臓】って名前からしてヤバイ代物だよな…?」
「ああ、
先代魔王が姿を消す前に自らの力を移した寄り代だ、だが魔神器は先代の忠臣達が厳重に保管していたはず…。」
ヴィーリオがラム・ロゥを睨みつける。
「 キサマ先代の家臣を手にかけたな…! 」
「あのバカどもめ強い力を手にしておきながらそれをお飾りのように扱いおって…、
ならば私が有効に使ってやるだけだ!」
ラム・ロゥが宝玉から更に力を引き出す。
「見ろ!
力が溢れてくるぞ!!」
高笑いをあげ更に力を引き出す…、
放っておけば厄介のはずなのにヴィーリオは動かない。
「ほっといて良いのかよ!?」
デインが叫んで武器を構えるがそれを手で制する。
「構わん、見ていろ。」
デインが武器をおろし力をつけるラム・ロゥを見ると徐々に異変が起こり始める…、
形がいびつになり岩の体が膨張しだし苦し気な呻き声を発する。
「元々魔力量の少ない貴様に魔神が使いきれなかった魔力に耐えられる訳ないだろう、
自爆して終わりだ。」
ヴィーリオが魔防壁を展開するとすぐにラム・ロゥの体が破裂し辺りに岩が飛び散る…、
全員怪我はないが爆発した衝撃で後ろの通路は完全に塞がれ主が居なくなった塔が崩壊を起こした。
「最悪だな…。」
虚が呟きヴィーリオと脱出口を探しに行きデインが遅れて走っていく後をライルが追うがふとラム・ロゥの残骸に光るものを見つけた。
「これは…。」
拾い上げたものは微かに脈打つ…、
これをこのまま置いていけば他の魔物に悪用されかねないため密かにそれを隠し持った。
「本当に心臓みたいだ…、
ヴィーリオ達には黙っておこう。」
信用していない訳ではないが万が一ということもある…、
いや、全て終わってから返せば良い、ともかく三人の後を追った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
塔の壊れた縁で三人が下を見下ろしながら立っていた…。
「なぁまさかよぉ…。」
デインが隣に立つ虚に恐る恐る訊ねると虚は視線を眼下に向けたまま口を開く。
「退路は塞がれている、
それに戻れたとしても唯一の出口はお前が閉めたじゃないか。」
まだ根にもっているらしく言い方がかなり刺々しい虚に「いや、でも飛び降りたら怪我するし」と口ごもる。
「洞窟でも落ちたが特に外傷は無かったじゃないか?」
思わぬところから援護射撃が加わりデインが絶望的な表情を浮かべ虚とヴィーリオが声は出さずに肩を震わせて笑う。
「1:3だ、諦めて逝け。」
「今のわざとだろ!!
嫌だよせ掴むな!!」
わめくデインを虚が掴んで飛び降りると奇声が響き渡る…、
虚がかなり楽しそうだったのは見間違いではないだろう、二人に続いてライルとヴィーリオも飛び降りる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おいこれ確か下マグマじゃなかったか!?」
落下中デインが思い出したように大声をあげそういえば、と虚とライルも思い出す。
「 どーーーすんだよぉぉぉぉお!?」
またしても騒ぎ始めるデイン、
だがもう溶岩が見えている…。
「騒ぐな、そろそろ来る。」
「来るって何が-----!?」
言い終わる前に咆哮が聞こえ四人は何かの上に降りた。
「はぁ!?
ドラゴン!?」
「落ち着け。」
わめき続けるデインを虚がオトし静かになる、ライルが脈を確認するとちゃんと生きていた。
「ハイン城に行ってくれ。」
ヴィーリオが命じるとドラゴンが方向転換して城の方に向かう。
「やつもよくできた手下だったのだがな、
くだらない野心さえ持たなければ生き長らえたものを…。」
そう呟いて崩れゆく塔を見ているヴィーリオだったがすぐに顔を背ける。
「ヴィーリオ?」
「居なくなった者の事をいちいち考えている暇はない、
さっさと異変を突き止めるぞ。」
いつも通りの口調だがその後ろ姿はどこか悲し気だった…。
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