福原令和

Toru1986

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EPISODE.3

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一人旅をはじめよう!実際に宣言すること自体はとても簡単なことだけど実際にやれと言われ「じゃあ始めてみます」なんてシンプルに有言実行・行動を起こせる人なんて一握りにすぎないだろう。私、福原令和史上初めてあてのない一人旅をはじめることにした。というか始めなければならない状況に陥ったと言った方が正解かもしれない...。

否、ちゃんと目的がある。
私のクラスメートこと広瀬多香美を探す旅だ。ある朝彼女がこつ然と消したことがそもそもの始まりであった。前日まで数日間に渡る猛特訓の末に、巨大ダンゴムシを誰の手も借りずたった一人で倒すという激務をやっとの想いでクリアし、次の段階、本来の目的である世界を救う旅に進めるとワクワクしながら床についたのであったが・・・。いない。一緒に旅立つはずだったのに多香美がいない。...あれ程楽しみにしていたのに。多香美は私を置きざりにして幼なじみである明日奈と二人旅立ってしまったのだ。

そんなこんなで寝泊まりしてきた街中で彼女達の動向を探る聞き込み捜査を地道に進めるも、全くもって音沙汰なし。このままだと全く埒が明かないと判断した私はついに重い腰を上げ、慣れ親しんだこの街から旅立つことに決意し、本格的に多香美探しを始めることにした。

ちなみに私が今いるアナザーサイドの一日はリアルワールド(現実世界)でいう5分に当たる。一週間は30分、一ヶ月は2時間という特殊な環境下の元で時間が動いている。

またモンスター、又はクリーチャーという化け物が生息しており、何とか生き残る為にリーチが長い点と、小回りが効くという2大特典で選んだ長さ2メートルの槍を愛用武器とし、私は戦士としてこの世界で生活をしていた。

既に訓練で倒し方を把握していた私にとってはまさに朝飯前となりつつある討伐。ダンゴムシに関して言えば、相手の重心となる足元をピンポイントで狙い、バランスを崩したタイミングで思いっきり柔らかい胴体内部を全力で突く。まさに当たれば一撃必殺、名付けて令和一本突き!

ほんの数日前まで普通の女子高校生でしかなかった私にしてはまるで別人ではないか。ちゃんと鏡で顔を見てていないが恐らくかなり勇ましい顔付きになっていることだろう。あまり嬉しくないことはおいておいて。そんなこんなで意外と苦労なく、楽しく一人旅を進めていた矢先、遂に多香美についての情報に辿り着くことに成功した。

「北北西に向かっていたな」

通り過ぎた馬車に乗った旅人が答えた。
力強く北北西に指が差される。

「あっちだね。あんたの言った通り二人組だったよ」
「ありがとうございます、とても助かりました!」

旅人に向け手を振って見送る。
ふと自分は何をしているんだと我に返る。旅を続けて早1週間が経過。初めて彼女の生存情報を聞き有頂天になってしまったが、思い返してみるとあまり有力な情報ではなかった。ただ方角が判明しただけである。この後の先が思いやられる。ただし私が進んでいる方向で間違いがなかったということなので、一先ず良しとしよう。

ガサッ。
大きな草が敷き詰められたこのジャングルの環境下ではどんな小さな音でも、聞き耳を立てていればどこで音が発生したのかすぐ位置が特定できる。私は背後に向かって声を掛けてみる。

「何かようですか!?」

実は数日前より私の後ろを必要以上に付いてくる怪しげな気配があった。しかし気配自体は感じることはできたものの、一度として肉眼でそのストーカーを捉えることはできず、特に向こうから声を掛けてくるわけでもなく、命を狙われるわけでもない為、しばらく無視し続けていたが、流石にずっと見られっぱなしは気持ち悪い、そして何より精神的によろしくない為、声を掛けることにしたのだ。

向こうも私の突然の行動に驚いたらしく、距離があってもビクついた様子が容易に想像できた。男はあっけなく姿を現す。口元を覆っていた布切れを取り除き顔を露わにする。知らない男だった。

「どちら様ですか?」

ぎこちない笑みを浮かべる男。
高校生くらいだろうか。少し自信のなさが伺える。
ゆっくりこちらに近づいてくる。背が高い。180はあるだろうか。

「それ以上近づかないで」

背中に背負っていた槍をサッと前に構え、50メートル程距離を保ちつつ、少しずつ後ろに下がる。何を思ったのか男は鼻で笑い出す。

「君は誰?」と私。
「・・・」
「私はあなたを知らない」
「酷いなぁ・・・まぁ、でも。そうだよね、無理もないか。もう7年経つもんね」

この男は何を勘違いしているのだろうか。7年と聞こえたが、生憎私は目の前にいる男を私は全く知らない。自分でも比較的記憶力はいい方だと思っていたのが本当に覚えがない。宇宙人に拉致されて記憶を消されたという失われた過去が別にあれば話が変わってるが、おそらくそんな展開がこれから語られるということは、ありえない。そもそも7年と言えばかなりの月日ではないか。一緒に生活をしていたら家族にはならないにせよ、かなり仲のよい関係になっていても可笑しくないだろう。まてよ、7年に会っていないという逆に意味を言っているのか?

ま、どちらにせよ、目の前にいる男は見ず知らずの相手であることに間違いない・・・でもなぜか妙に懐かしい感じがするように思える。どこかあの自信なさげの顔に見覚えがあるとでも言うのだろうか?

男が自らの槍を突然こちらに向ける。威嚇とみなし槍の先端部分で相手の槍を弾くも相手もなかなかの腕が立つらしく、すぐさま連続した突き攻撃が飛んでくる。あまりの速さに全て弾きかえせないと察知、横に倒れ込むようにひとまず回避する。相手も槍のリーチを熟知しているのか、常に間合いを考え上手く具合に距離を詰めてくる。本当に隙がない。対人戦をほとんど経験していない私にとっては相手が生身の人間というこの戦いは、恐怖と不安との戦いでもあった。

しばらく槍同士の攻防が続く。お互い全く一歩も引かず、正に互角とも言える戦い。次第に二人の息が上がっていく。

「いいかげんにして、なんなの」
「僕のこと、本当に覚えていないの?」
「知らないから、あんたなんて」
「ひっどいなー」
「人違いで襲うとか、ありえないから」
「福原令和」
「はっ!?」

突如フルネームを発せられ手元に隙が生まれる。この時を待っていました!とばかりに速攻男は足場を崩しにかかってくる。

「あっ」

転倒した。後ろを振り向こうと姿がない。するとどこからともなくヒンヤリとした冷気が感じられる。首筋に槍の刃先が当てられていた。

「負けた」と私。
「よっしゃ!」とガッツポーズをする男。

「あんた何なの?」
「強いね」
「ストーカーしてたでしょ、あんた」
「あんたじゃない、龍だ」

沈黙。

「福原龍、弟だよ。いい加減気づかない?姉ちゃん」
「ハアッ!?」

かなり大きな声が辺り一面に響き渡る。

「嘘でしょ?アリエナイ。ありえないからっ」

龍の顔面をまじまじと見る。
頬をつねる。背丈を比べる。目が合い笑われる。

「なんでいるの?」
「そっちこそ、やっと見つけた」
「龍?」
「ね、ねえちゃんだよね?」

無言。沈黙の静けさがしばらく流れる。
思っても見なかった再会。聞きたい話は山程ある。ふと大きな疑問が湧いてきた。確かこの世界は高校生でなければ入る事ができない場所だったはず。私の記憶が正しければ龍は小学3年だ。

「龍、あんた年は?」
「15だけど」
「・・・背、伸びたね」
「あ、うん」
「学校はどう?」
「どうって何が?」
「友達できた?」
「うるさいな、放っておいてよ」

やはり彼は成長した龍で間違いなかった。



高校生一年生。ということはザッと計算して7年近く経っている計算になる。

「私は24ってこと?ねぇ何か言いなさいよ。龍、龍っ!」

勢い余って龍の肩をグラグラ揺らしていた自分に我に変える。

「あ、ごめ」
「失踪届け出てるよ」
「あ、そうなんだ・・・って、え!」
「向こうはどんな感じ?」
「普通だよ」
「・・・わたしそんな長居してた覚えないんだけどな」
「姉ちゃん、その発言、典型的なゲーマーだよ」
「えっ」

その場で腰を落とす龍。続く令和。
龍の口から語られた話を鵜呑みにすると、福原令和は現実世界=リアルワールドで失踪し、その姉を探す為このアナザーサイドまではるばるやってきたという話だ。

「ちょっと、ちょっと待って」

話を途中で止める私。

「どうやって入ってきたの?」
「それは・・・言えないかな」
「は?言えないっ何?」
「その通りの意味だよ。タイミングが来たら言うから」
「・・・あんたムカつくわ」
「ごめん」
「そういうの、マジでムカつくから辞めて」

龍が私の槍を指差す。

「それ、選んだんだね」
「偶然よ、偶然」

槍。
姉弟揃って同じだ。

「そう言えば、」

龍が口を開いた矢先、遠方に光る軌道が見えた。

「危ない!」と私。

飛んできた斧を槍で跳ね返す龍。しばらく経って笑い声が聞こえてくる。手には斧や棍棒と原始的な武器を持った6人組がゾロゾロと登場。
アナザーサイドにもチンピラは存在していたらしい。しかも見るからに質が悪いそうな連中だ。それにしても今の軌道、気付かなければ龍の脳天に直撃していたことだろう。そうなった場合は死を意味する。

耳障りな高笑い6人分は相当胸糞悪く、現実世界でふざける男子高校生とデジャブを感じてしまった。あいつら高校卒業できたのかな?ま、今の私には微塵たりとも関係のないことだ。

目の前のチンピラ達は冗談を言い合ってバカみたいに笑っている。私は男達に近づく。途中龍が止めに入るも無視し槍の先端を奴らにかざす。

リーダー核の男が再び高笑い。耳に残りそうな不快な笑い声が辺り一面に響き渡る。

「おー怖っ」

いつの間にか私はリーダーを睨んでいたようだ。

「いいねぇ、いいねぇ、そういうの。強い女好きだぜぇ」
「なんのよう?」
「よう?」

背後に位置するチンピラに目くばわせをするリーダー。再び笑い出すチンピラ達。引き笑いが酷い。毎回会話のキャッチボールをする度にこの不快過ぎる高笑いを挟まなきゃいけないのかと思うと絶望を感じる。無駄過ぎる無駄無駄無駄。省エネな私にとって無駄が一番嫌いなのだ。

「あ、ボス!」

チンピラの一人がサッサと帰ろうとしていた私達に気付く。

「おいおい、まだ話終わってないだろ」とリーダーが声を張り上げる。

「ようがないなら、もういいでしょ」
「おー、悪い悪い。率直に言おう、まぁ待て。その槍をくれ」

龍の腕を引き寄せ、足早にその場を去ろうとする令和。

「おいおいおいおい、だから待てって。そう怒るなって」

「誰がが怒らせているさ」
「なんだなんだ、気性が荒いな」
「行こ、龍。私達はやらなきゃならないことがある。こんなチンピラ達に構う時間はないから」

リーダー、手を上げ合図すると、チンピラ5人が小走りし私達をグルリと取り囲む。背中合わせで槍を構える福原姉弟。クスクス笑い声が聞こえ、後ろを見ると龍が笑っている。

「なに」
「姉ちゃん、あれ・・・、マッドマックスみた?」
「はぁ?」
「あいつらさ、絶対見掛け倒しのザコじゃん」

背後からヤジが飛んでくる

「ザコっていうのは間違いないけどさ、そんな面白いこと?」

「めんどくせぇ、ヤレ」

リーダーの合図で一斉に武器を振り上げるチンピラ達。龍が一瞬構えた途端、閃光が走る。男たちの武器が一瞬にして破損。先程まで手に持っていた武器がなくなり、その場でおろおろするチンピラ達。

「次は、首行くよ!」

再び構える龍。

「待ちなって!」
「こういうやつは、言ってもわからないんだよ、だから」
「だからって、殺すのはよくない」
「はぁ?」
「刑務所入りたいの?」
「姉ちゃん、ここアナザーサイドだよ」
「だからって人を殺していいって話にならないでししょ」
「いや、ありつらまともじゃないから、ぶっちゃけ同じ人間かも正直怪しいよ」

しばらく続くやりとり。

「姉ちゃん」
「何?」
「もういない」

見ると先程まで威勢だけは良かったチンピラ達の姿はこつ然と消えていた。

「あーあ、つまんない。折角の機会、姉ちゃんにも見せたかったのに」
「あんた随分生意気になったね」
「それより、姉ちゃんさ」
「なに?」
「広瀬さんとは知り合い?」
「えっ」

広瀬?ヒロセ、ひろせ・・・広瀬多香美。
たかみ、タカミ!


「広瀬多香美って言った?」
「たかみ、あ、なるほどそういうことか」
「えっ、多香美に会ったんじゃないの?」
「航さんだよ、僕が話したのは。広瀬航、多香美のお兄さんだよ!」



続く。
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