福原令和

Toru1986

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EPISODE.7

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巨漢大男が私の前で腕を組んで立っている。見上げる程の身長は2メートルは軽く超えているだろうか。彼もまたこのアナザーワールドに存在している=必然的に高校生であることに間違いはない。

彼の名前は「青年マッハ!」。本名不明。大柄な体格とは裏腹にその名に恥じない俊敏な足を持つ青年だ。崩壊間近なこの世界で現実に戻る選択肢をあえて取らず、また群れることなく孤独にこの世界を楽しく生きている青年であり、男子高校生だ。

私、福原令和とその弟の福原龍。私をこっちの世界に引き込んだ張本人の広瀬多香美、そしてその親友である小池明日奈は崩壊間近のアナザーワールドを唯一救い出すことができる手段、全ての元凶を打破出来る可能性が高いと噂される1グループ《チームお抹茶》の3人を探していた道中、彼にバッタリ出会った。

既に高校生どころか人の気配すら全く消えたこの世界で、動くものと言えば言葉が通じない相手くらいなものだ。そんな面白みのない風景を歩いていた時に、遠くから一直線に引かれる砂煙と共に猛ダッシュしている人を見つけたのはほんの数分前の出来事だった。

「マッハ!くーん」と多香美が突然大きい声を張り上げた。あんなに砂煙を巻き上げている状況でどう考えたって絶対に聞こえないだろうと思いきや、驚くことに一旦通り過ぎた後に大きくUターンしてきたことに心底驚いた。しかも一直線にこちらら向かってくるかと思いきや砂煙が私達を軸にぐるぐる回り始めた。僅か数秒後、遠心力で足場の砂が崩されその場に尻もちをつく4人。とんでもない量の砂煙が目鼻口に襲いかかり、わたしは今まさに死んでしまうのでないかと思われた瞬間、ピタッと砂嵐は収まり目を開くと堂々と腕組をした青年マッハ!の姿を視界に捉えた。

群れることを極端に嫌う、気難しい性格と事前に多香美から噂を聞いていたのだが、実際に会った第一印象もまさにその通りだった。

「いやー、相変わらずでっかいなーマッハ!君は!」と多香美が開口一番に近寄る。他の三人もマッハ!を見上げていることから異論ないようだ。そんな圧迫感のある彼に怯むことなく、いつもどおりのノーテンキさを出す多香美。

「誰かと思えば、多香美と明日奈か」

ニッコリ笑う多香美、片手を上げてクールを装う明日奈。青年マッハ!は一呼吸開けたのち、開いているか開いていないのかわからない細い目で私達姉弟に見つめる。

「ぼ、僕、福原龍です」。

恐怖を感じたのか一足先に自己紹介をはじめる龍。青年マッハ!はまるで占い師如く、龍の名前をゆっくりと繰り返し呟きはじめる。

「ふくはら りゅう」

太い声が辺り一面に響き渡る。残った知らない顔の私に視線が止まる。

「あ、えっと令和、福原令和」

ニコリともせず、私のフルネームを独り言のように呟く。

「ま、何人集めようと彼の足元にも到底及ばないね。多香美、残念ながら数じゃないんだよね」
「別に私は数で倒そうとは言ってないんだから」
「なら何で行くんだよ、無謀過ぎ」

多香美は青年マッハ!を腹目掛けてパンチを繰り出す。恐らくダメージ表示が出るゲームだとゼロと表示されているだろう。しばらくポカポカ殴っていた多香美、諦めるかと思いきやいつも持ち歩いているかばんからおつまみを突然取り出す。もう少し詳しく説明するとおつまみはおつまみでも干し肉である。

「ほれ」

以前に私もこれと同じ洗礼を受けた事があった。この一連の流れを彼はどう捉えるかと興味津々で見ていると、アッサリ干し肉を受け取り、普通に口に放り込む。流石大きいだけあって食に目がないようだ。この一瞬の出来事で明らかに友情の輪が一気に生まれたように見えた。

「うめぇ」

くちゃくちゃ干し肉を噛み始める。僅か数秒も立たぬうちに喉に流し込まれた。

「残念だけど、僕は君たちの仲間になれないよ」と青年マッハ!は太い声で発する。

「世界を救わないのなら、なにすんのさ、君はなにするの?」

一瞬の沈黙。図体が大きいだけに突然動きが止まると場合によってはとても恐怖を感じる。突然襲いかかってこないかと時間が経過するごとに不安が押し寄せてきた矢先、今度は楽しげに口を開く。

「僕はアナザーワールドの最後を見届ける、僕が最後の一人になるんだ」

言いきった。しかも満面の笑みで。なんてやつなんだ。自分さえよければいい典型的なタイプの大男だった。

「ありがとう」

干し肉に対しての感謝のお礼に気づくまで数秒掛かった。笑顔だけは善良なタイプの人間だけに、彼の口から発せられる言葉に正直失望させられたのは言うまでもない。

「ちなみになんてチーム名だい?」
「あ、そうだね、なんか忘れているかと思ったらそれだ!さっすがー、冴えてるねぇマッハ君は!」

声高々に私達の方に走る。チーム名をこの場で決めるつもりだ。すぐに決まらない様子を感じ取ったのか、青年マッハ!は明らかにその場を去る素振りをみせる。

「じゃ、もし次会う機会があったら聞かせてもらうことにするよ」
「お、相変わらず忙しい男だねぇー、あ、そうそうなんか変わったことはなかった?」

めんどくさそうに振り返る青年マッハ!

「チームサマーに会ったくらいかな」
「え、サマーと言えば、すぐる君元気だった?」
「あいかわらず和也を困らせているよ」
「相変わらずなんだね」
「まー、リタイアするのは僕も驚いたけど・・・」
「リタイヤ?」と明日奈が割って入る。
「いや、なんでもない」

顔に似合って、嘘を付けない性格らしい。

「えっ、ちょっとなに、教えてよマッハ!君。ねぇねぇ今なんて言ったの?ねぇ」

叩いたり、しがみついたりしてまるで親に欲しいおもちゃをねだり、駄々をこねる子供のような姿に若干その場にいる全員が引く、次の瞬間青年マッハ!はその場からこつ然と消失した。その反動で転倒する多香美。

「チームサマーに何かあったんだろう?」と明日奈。

多香美が悔しそうに立ち上がり、服に付いたホコリを払う。

「・・・まさか」と険しい顔になる明日奈。
「死んだ?」と多香美が呟く。この子は本当にバカなのか。思ったことすぐ口に出し過ぎだ。しかしその言葉があの青年マッハ!呼び戻すことになった。ちなみに姿は見せず、どこからともなく大きい声が辺り周辺に轟いた。

「いや、死んではいない。うん、それだけは断言できる。・・・ま、これ以上先は実際に君たちの目で確認してよね」
「なんだよ、もったいぶってさー、教えてよ、それくらいさ」
「やーだね」
「ケチケチケチっー!」
「じゃ、そういうことだから、せいぜい残りの時間楽しんでね」

そう吐き捨て加速音と共に数秒後、物凄い砂嵐が再び私達に襲いかかる。

そんなこんなで青年マッハ!に一方的に別れを告げられた。また会う機会があるかはわからない、それでもなお社交辞令で青年マッハ!は私達に情報提供してくれたことに感謝の言葉を述べる多香美。

それからしばらくして、多香美が悲鳴を上げた。その突然の大声にその場にいる全員が驚いた。

「マッハ!君、出てこい!マッハー!」

わかりやすい怒り方に一同大爆笑する。
しかし次に多香美の発する言葉に一同顔面蒼白することとなる。

「スられてる。無一文だよ、私達」
「えー」とまるで打ち合わせをしたかのように3人同時に声が重なる。もちろん打ち合わせなんかしていない。その阿吽の息にニヤリを微笑む多香美。

「おー以心伝心!これならチームお抹茶に勝つのも夢じゃないぞ」
「バカ」と明日奈。

いや彼女ならやりかねない。多香美ならボスを倒した後、どっちが本当に強いか勝負をしようと言ってチームお抹茶と戦ってもおかしくない。

焦る私達。しかしその後明日奈が呟いた言葉に一同落ち着きを取り戻すこととなる。

「崩壊するんだから、お金持っていても意味ないか」

「確かに」三人の声が再び揃う。しばらくその場でこの後の動き方を議論していると、ふと目の前が真っ暗闇になった。一瞬何が起こったかは分からず手探りで周辺に手を伸ばすと明日奈の背中に触れた。手を取り合いその場で腰を落とす。

「ちょっとどこ触ってんのよー」と多香美の甲高い声が聞こえてくる。「不可抗力です、不可抗力ですー」と必死に弁明する情けない龍の声に私たち2人は笑いを堪える。しばらくして目が徐々に慣れてきた。明日奈と離れ、近辺に視線を巡らすと、さっきまでいた場所となんら変わらないように見えた、いや・・・何かがおかしい。

「あっ!」という大きな声が上がる。多香美が彼指差す上空を見上げると、なんと空が真っ青になっていた。はじめ私の目がおかしくなったのかと思い、目を擦ったり、まばたき を何度も繰り返しすものの、一向に変化がない。遂にこの時が来てしまったようだ。アナザーワールド崩壊の話は、噂ではなく現実なのだ。こうして目に見える形で崩壊へのカウントダウン宣告されると、流石に息が詰まったものがある。

「わぁ~綺麗!」

「は!?」と3人が同時に多香美にツッコミが入る。世界が崩壊するって時にあまりにも呑気過ぎ。しかしその数秒後、明日奈の「ほんとだ」に残った二人も不意を突かれた。

更にその数秒後「うわっ~!」と龍がここイチ大きな声を発する。「またまた大げさな」と思いながら上を見上げると、確かに青空をさらに一層濃くしたような《蒼い空》が存在していた。その迫力は圧巻という言葉がピッタリでこのままずっと蒼空を見ていられるくらい壮観、間違いなく綺麗だった。

空を見つめ続ける4人。

しばらくは変わらないようだった。「よし、行こっか」と多香美が呟くと、おのおの気持ちを切りかえるを行う。私達は無言で歩いた。空が真っ青なだけでいつも見ている風景がこんなも変わるだなんて思いもよらず、これがこの世界を滅亡させる前兆ですと言われない限りはスマホでパシャパシャ写真を撮っていただろう。まぁスマホはこの世界で使えないんだけど。

「ねぇ、チームお抹茶の情報を教えて、さっきの彼以上に曲者なんているの?」「え?」と驚いた顔の多香美がこちらに歩み寄る。

「なになに?気になっちゃってるの?」

子供みたいにウキウキした表情を覗かせる多香美にちょっとだけウザさを感じた為、棒読みで「ハイ、そうです」と返答する。

「弥生ちゃんはね、最高だよ」
「はぁ?」

この子は本当に私と同じ高校生なのか。主語と述語で話が成立すると思っているのか?頭の中がお花畑もいいところだ

「相手をボコボコぶん殴って、最後は丸焼きにするんだよ」
「ええっ」と龍が私より先に驚く。

相当やばいやつじゃん。そんな人道を外れた人が入っているチームに会う為、私達は今歩みを進めているのか。待って、冗談じゃない、巻き添えを食らうのは正直ごめんだ。

「多香美、ざっくりし過ぎ」
「えっ、だってその通りでしょ」
「弥生、高校一年生で茶道部員、言ってしまえばこの中では多香美に圧倒的に似てるかな。あとゲーム好きで一度決めたことはテコでも動かない熱いタイプ。さっきの丸焼きって表現なんだけど、炎を自由自在に操ることができるので、あながち間違いではない。あまり怒らせないほうが得策かな」
「もう多香美の言うこと信じない」
「えっ、ええ、私に言ってることと全然変わらないよ」
苦笑。

「ねぇ、姉ちゃん」

何度か龍に声を掛けられ、気づく。

「なに?」
「姉ちゃんってそんなに笑うタイプだったんだね」

ポカンとする。

「あとさ、よく喋る」
「それあんたにも返す」
「えーなになに、福原姉弟って無口なの?」
「でも意外とそういうのあるかもね」
「おっ、明日奈ちゃんも意識ある系?」
「本で読んだんだけど、普段暗い人ほど、明るくて、反対に明るい人ほど中は暗いって話」

私、龍、明日奈が一斉に多香美を見る。

「いやいや、ないない、私は裏表ない、このまんまの人だよ!」と手足をバタバタさせて強く反論する。思わず笑う三人。

「ますます怪しい」
「ひっどーい令和ちゃん、じゃ令和ちゃんの中身をもっともっと穿りだして、常にニコニコ顔にしてあげようか」
「やめて、それは勘弁して」

言われてみればそうかもしれない。思い当たる節があると言うのか、なんやかんやで人とこんなに会話が続くのは久しぶりだ。学校では特にこれといったことがない限りクラスメートとは話さないし、弟とも家族とも最低限口を開くだけだ。彼氏は彼氏で話してばかりで私は聞き専門だったっけと遠い過去のように思い出された。

ドッカーン!

500メートル先で爆音と共に火柱が上がる見慣れない光景に私達四人は驚く。すぐさま走り出す多香美。追いかける明日奈。龍と目が合い二人に続く。


続く・・・。
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