日ノ本国秘聞 愛玩

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 白い夜着を纏った岬がそこに入り込んだ時、「あ、いく、ああ……!」と尾を引く声が満ちた。

 オイルランプの細い明かりの中、まず見えたのは今代の裸形の背。
 今代に隠れるようにして、尚人が見えた。
 背面から座位で貫かれる形になった尚人は、ちょうど何度目かの絶頂に達したところであるようだった。
 尚人はがっくり項垂れながら、あえかな呼吸を繰り返している。
 ひくひく震えるその体を今代は支えてやっていた。岬の存在に気づくと唇をつり上げた。

「来ないのかと思ったよ」
「まさか、そんなわけがないでしょう」

 今代と岬が言葉を発しても、尚人は意識が飛びかけているのか、反応しなかった。

「あなたこそ、尚人を抱き潰すおつもりですか?」
「それこそ、まさかだよ。尚人は飲み込みが、いい」
「ひあぁ!」

 今代は言うが早いか、ぐん、と腰を突き上げた。上がったのは淫らに濡れきった声。

「誰かさんに似たのか、な?」
「あ、あ今代、様! いい、もっと……!」
「おねだりも上手に言えるようになったね、尚人」
「はぁ、あぅ……あ!」

 くすくすと笑みながら、若い躯を開く動きは全く容赦がない。
 尚人は揺さぶられるまま、ほとんど反射的に声があげていた。

「果実は熟れて、実に美味」
「あ、あ……むね、両方は……っ!」
「尚人は本当にここが弱いねえ」
「んぁあ、あ!」

 岬の眼前、今代の腕の中で尚人はあられもなく乱れ、快楽に耽る。
 のけぞり、震える度、ぱたぱたと寝所の褥に汗が飛び散った。夜着は片袖が左腕に引っかかるのみ、それもぐっしょりと湿っていて、身を守る用途を成していない。

 やせ気味の躯は今代の思う様に嬲られたのだろう。胸の粒は白い肌の中で痛々しいほど赤く立ち上がって存在を示している。今まさに胸を弄られ、尚人はびくびくと肩を震わせた。

 こくり、と嚥下したのは誰のものか。

「……岬、おいで」

 招かれるまま、岬は我が子と、我が子を抱くあるじの傍らに座った。

「おまえも味わいなよ」
「……はい、御心のままに」

 岬は荒く呼吸する尚人の頤を捉えた。

「ん……」

 尚人は目をさまよわせていたが、やがて大きく見開いてゆく。

「と、父さん……!? あ、ぅ……!」

 尚人は疑問ごと口づけで封じ込められた。すぐさま岬の舌が絡みつき、ねばついた音が散る。
 抗おうと尚人の腕や脚が持ち上がったが、すぐさま四本の腕が押さえつけた。何より下肢は未だ今代とつながっている。

「んんぅ……!」

 今代がゆるゆると抜き差ししただけで、途端に尚人の体から力が抜けた。岬はなおも口を吸いながら、我が子の体をまさぐった。

「ぁや、あ……! 父さんが、今代様……っ」

 なんで、どうして。尚人の動揺は手に取るようにわかる。
 今夜は尚人だけが寝所に呼ばれたはず。その手筈を整えたのは父親の岬その人だ。
 しかし、そんな尚人に対して、今代は微笑みを浮かべたまま、岬は沈黙のままに、もう一度快楽の沼へたたき落とす。
 背後から包み込む今代、前面から絡みつく岬。大人二人相手に少年が抗いようもない。

「ひぅ!」

 岬はいったん尚人の唇を解放するが、すぐさまそれは下へ向かう。汗の流れたあとを辿るように舌先が滑り、とうとう左胸に行き着く。右胸は今代の指が戯れていた。岬の舌がぞろりと尚人の左胸の先を舐め上げた。

「父さん、ああっ、やだ! それ、やだぁ!」
「尚人、嘘をついちゃだめだよ。乳首、好きでしょう」

 一夜にして育てあげられた尚人の性感帯はけなげに立ち上がり、そこを思うがままに舐められ、摘まれる。

「尚人は……皮膚が、薄いせいかもしれませんね。色も白いから、敏感だ」
「岬はあんまり感じないのにね。ああでも、中をこすられるのは二人とも、大好きだよね」
「あ、あぅんん……っ!」

 ずる、と今代の楔が退いた。おいすがる肉の余韻をたっぷりを楽しむようにゆっくりと引き抜いていく。
 解放されても、体に力が入らない尚人は後ろに倒れ込む。

「おっと」

 今代は尚人を仰向きに寝かせ、額にはりついた前髪を払ってやった。
 快楽に翻弄され続けた少年の顔は、現人神の好む淫気に染まる。ふ、ふ、と細く小さく吐く息にまで、たっぷりと。

「まだ、終わりじゃないよ。可愛い尚人」
「あ、嘘……父さん」

 自分を次に組み敷く相手をはっきりと認識し、尚人は怯えた。
 今宵、現人神に抱かれることをやっと受け入れたというのに、更に次は実の父親がかの人の寝所に侍っている。その意味。
 先ほどまで少年を抱いていた、指先まで美しい人とは違う感触をいやでも感じる。
 割り広げられた下肢と触れあう、さらりとした夜着。尚人も、今代のそれもどこかへ追いやられているだろう、やわらかな布ごしの体温。

「尚人。息をして」
「あ……、ああ! あっ!」

 今代の見ている前で、尚人は岬の男根に貫かれた。
 尚人の後腔は熱く、何度押し開かれていても喜ぶように締めつける。

「……くっ」
「ひ、あ……入って、父さん……!」

 挿入の違和感も通りすぎ、教え込まれた快楽に尚人は苛まれる。
 岬はわずかに顔を歪めつつも、ゆるゆると抜き差しをやめない。

「は、あ……っ」
「岬、自分だけ気持ちよくなっては駄目だよ」
「わかって、います……」
「ああ! 父さん……!」
「気持ちいいねえ、尚人」
「は、……は……っ」

 今代は父子の傍らで微笑む。それはいつかの情景に似ているようで、全く違う。
 この場を支配するのは現人神、父はその腕で子を抱き、子は快楽に鳴く。
 肉が肉を打つ。生々しい音が響く。あがる声は高く闇に溶けた。

「そろそろかな」

 今代がそろりと動いた。岬の背に今代の腕が伸びる。岬が、わずかに息をつめたのを尚人は感じた。

「今代様……?」

 尚人の呼びかけにも、今代はあでやかな笑みを浮かべるだけだった。
 猫のようにしなやかな今代が、岬の背後に回る。

「下着をつけないように教えるなんて、悪い父親だね」
「……ふっ!」

 仰臥する尚人は岬の体が僅かに震え、強ばるのが見えた。その顔はこみあげる何かをこらえているように見えた。

「我慢しなくてもいいのに。いつもみたいに声をあげてごらんよ、岬」

 岬は尚人を組み敷きながら、背後から今代にのしかかられる形となった。今代が岬に何をしているのか見えなかったが、それを尚人は身を持って知っていた。

「あ、そんな……」

 あまりに異常な空間であった。息づかいや身じろぎがつぶさに感じられ、おのが性感を相手にも露わにしてしまう。
 今代は岬に手淫を施し、その快感は伝播するかのように尚人ごと揺さぶるようだった。岬が息詰まらせるたび、尚人もはしたなく声が漏れた。それでも岬は腰の動きを止めようとはしない。

「ひあ、あ……今代様!」
「っ締めるな、尚人……っふぅ!」

 尚人の困惑はもはや意識の彼方に追いやられ、岬のもたらす快楽に揺さぶられるだけだった。
 今自分を貫いている肉の持ち主が誰であるか、それは頭ではしっかりわかっているはずなのに、気持ちいい、という体感にすべてが曖昧になっていく。

 気持ちいい、気持ちいい、もっと、もっと。

 快楽に耽溺することを今代は肯定した。
 尚人が浅ましくねだり、身悶える姿を喜んで見ている。
 それをもっと見せろと、微笑みで命じている。
 尚人は従った。

「あむ……んん、父さん……」

 尚人は伸び上がり、岬の唇を求めた。快楽を今、与えてくれる者へ、さらにせがむように。
 つたない舌の誘いに岬は逡巡したように見えたが、すぐに自分のそれを絡めた。

「キスをしている間は、声をあげたくてもあげられないよね」
「ん、ん……」

 ぺちゃぺちゃと親子の舌の交わりを眺めてから、今代は岬の顎ごと引きよせ、尚人から奪い取る。
 麗しい今代と尊敬してやまない父親が唇をふれあわせ、舌を絡めるのを尚人は陶然と見上げた。舌の動き、粘った音、息苦しくなってもなお続けたいと思ってしまう卑猥な口腔の交わりを、尚人はもう二人分、それぞれに知ってしまっている。

「理由を聞いてたね、尚人。なんでって」
「……あ……」

「僕が望んだからだよ。かわいい尚人」

 岬を解放した今代は、淫蕩な気配を隠しもしない。

「初めて岬を見つけた、あの日の夜に決めたんだ」
「く……ぁっ」

 岬の声が弛緩した。淫楽に染まった声音は低く、扇情的だった。
 尚人は岬に抱かれながら、その衝撃を受け止めた。今代が容赦なく岬の後腔を犯す瞬間を。

「かわいい岬」
「ぁああ……っ!」
「かわいい岬が僕に抱かれながら、自分の子供を抱くところが見たいってね」

 時間はかかったけれど、かわいい子の子供はまた違うかわいい子供に育った。

 それは嬉しい誤算だったよ、と穿つ動きのまま今代は囁いた。

「みんなでもっと、気持ちよくなろうね」
「ぁ、あ……!」
「や、父さんっ あぁぅっ」

 岬はもはや抑えることができなくなり、今代の律動のままに声が漏れ出る。その動きは尚人にまで伝わり、尚人もまた淫らな鳴き声をあげた。
 二人があげる嬌声は卑猥な合奏じみていて、奏者にして聴衆は今代ただ一人。今代は岬を抱きながら、同時に尚人も抱いているのだ。

 すべては現人神の望むまま。

 現人神の望みを叶えることは、神蔵の者の勤めであり、喜びである。
 幼い頃に、孤独な尚人を慰めた言葉。

 おまえは望まれて、生まれてきたんだよ。

 望んだのは父であり、そして。

「あ、……さま、庚様!」

 掠れた声で、岬が今代の名を呼ぶ。尚人がその瞬間に父親を見上げたのを、今代は見逃さなかった。

「尚人も僕の名前を呼びたい?」
「……ぁ、うっ……」

 岬の肩越し、汗と精にまみれた尚人の頬が、これ以上ないほどに赤くなった。
 それは岬だけに許された特権だ。今代は側近く置く人間を厳選しており、その中でも岬以外に誰にも名を預けることをしなかった。
 尚人が見ている前で、岬が今代の名を呼ぶことは、これまで、そう、今まさにこの時までなかった。
 いつ岬が特権を行使していたのかを悟る。そして尚人に込みあげてきたのは、嫉妬と羨望だった。

「尚人」
「あ、あ……呼びたい……」
「何を」
「お名前……呼びたいです!」
「いいよ」
「ひ、ああぁ……っ あ!」

 現人神の諾の一言を呟くや否や、さらに注挿を激しくした。ずん、と突き上げられた快楽の極みに、岬と尚人からは同じ言葉が飛び出す。

「ぁあ、庚様!」
「庚様ぁ!」
「ふふ……」

 蕩けた声を聴きながら、今代はさらに深く父子を貪る。 

「次は尚人が岬を気持ちよくするんだよ」
「はい、庚様……」
「庚様の、望みのままに……」

 その夜の交わりは、父子の声が枯れても、なお果てしなく続いたのだった。

 隆盛極む日ノ本の、陰なる部分。
 それは今もひそやかに営まれる、神と人々の秘め事。

 終
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