88 / 92
88 中の人
しおりを挟む眼の前に立っていた背の高い男は魔術師のマントを羽織ったギルドの総務主任だった男、スタンだった。
「久しぶりだな?
で、どっちなんだ?」
「えッ?」
「リーナと里奈、どっちだ?」
「えええッ?!」
スタンは以前より日によく焼けた肌色で身体つきも若干逞しくなったように見える。
「俺は今友人に借金を返すために冒険者に戻ってるんだ。
何かあったらその宿舎に住んでるからいつでも相談に乗るぞ」
そう言って彼が親指を立てて、後ろの建物を示す。
「冒険者ギルドの共用宿舎?」
「ああ。
1人モンだからこっちの方が楽なんだ。
自炊も面倒くさいからな。
メシが付いてる方が何かと便利なんだ」
はははは、と笑う彼は以前より明るく健康そうで若返って見えた。
「スタンさ~ん。
置いてかないで下さいよ~」
後ろから冒険者によく見られる胸当てだけの皮鎧と革のマントを身に着けた若い男性2人と少女1人。
腰の武器をガチャガチャいわせながら走ってきた。
「おせえよ!
集合時間過ぎてるだろ?!
1人で出発かと思ってたぞ」
振り返りながらスタンが怒鳴る。
「スミマセン~、珍しい露店が多くてつい、目移りしちゃって。
コイツが・・・」
「私じゃないわよ!
コイツが受付のソニアちゃんにプレゼントとか言ってさ~」
「うっさいバーカ! バラすなよ! って。
誰すかその美人? ソニアちゃんより可愛いッ! スゲエ!
ねえ、君なんて名前ッ てぇええ?!」
最後のチャラそうな青年の頭にスタンの拳骨が入り『ゴンッ』という痛そうな音が盛大に聴こえる。
「貴様ら遅刻しといていい身分だなぁ~」
「「「ひょえッ!」」」
「じゃ、スマン騒がしくて。
今から依頼をこなしに行くんだ」
スタンが、困り顔で彼らを顎で指し、
「じゃあ。又な」
そう言いながらチャラい男の襟を掴んで歩き出す。
慌てて残りの男女が付いて行くのを人混みの中で見送った・・・
「あれ?
異世界にまた来ちゃってる?」
・・・ 中の人、健在である。
×××
大聖堂の鐘が鳴る。
今日はこの国の王太子シルファとその婚約者である辺境伯の御令嬢ソフィアの婚姻式当日で、王都中がお祭り騒ぎだ。
王都の道という道には花が生けられた小さな酒樽が置かれ、家々の玄関にはリースになった色とりどりの花飾りが飾られる。
国民的アイドルであるシルファ王子の瞳の色に因んで空色、そして辺境伯令嬢ソフィアの瞳の色に因んで青紫の2色の花々を銀色とピンク色の2本のリボンで結んだ小さなブーケを構えて大聖堂から出てくるのを今か今かと待ち構える王都民達。
警護に王宮騎士団が駆り出され、聖堂に至るゆるいカーブを描く階段の脇に等間隔に配置され、銀色の鎧が柔らかく降り注ぐ日差しに当たり輝いて彼らの表情も誇らしげに見える。
聖堂の正面ドアがゆっくりと開いていき騎士達全員が右手を胸に当てて敬意を表す中、階段をゆっくり降りてくる一対の男女。
輝くようなプラチナブロンドが日差しを受けてキラめいている王太子は見慣れない真っ白な軍服を模した式服を着ているが、隣の王太子妃になったソフィアもこの世界では見慣れない真っ白なロングトレーンが美しいマーメイドドレス姿だ。
カラードレスに慣れきった王都民達も彼らの清廉さを感じさせる美しい装いに溜息をつき、その一瞬後には歓声を上げる。
頭頂部の小さな銀のティアラが、烟るように銀色の刺繍が散らされたマリアベールの上にちょこんと載っているが、王子の瞳の色と同じアクアマリンがこれでもかというくらいのサイズでやたら目立っている・・・
――うん独占欲強そうだな~、流石ヤンデレ予備軍だよな~。
と騎士の後ろから覗いて遠い目になる里奈。
しかし、目的はソコじゃない。
「はぁ~んッ! かわゆい。
ソフィアたん神ッ!
生き返って(?)良かったッ! 眼福だわ~」
ボソリッと思わず呟くと眼の前を通り過ぎる直前で急にグリンッ!
と振り返ったソフィアに、口パクで
『ア・ト・デ・ネ』
と言われて思わず目をパチクリとさせた里奈である。
「あれぇ・・・?」
×××
屋根のない白い6頭立ての馬車に乗って2人揃って手を振りながら王都をぐるりと巡って王都民にお披露目後、そのまま新婚旅行に出発した王太子夫妻。
・・・に、突然拉致され何故か海辺のリゾート地のホテルみたいな部屋で呆然と座る里奈。
窓の外ではヤシによく似た背の高い木が、風で揺れてシャラシャラと微かな音をさせている。
「お久しぶり~。里奈さん」
やはり眼の前に立つ人はソフィア・レイド・グレーンその人だった。
――ついでにシルファ王太子がお定まりの彼女の腰を抱くスタイルで付属していたが。
46
あなたにおすすめの小説
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる