【完結】転生した元社畜男子は聖女になって人生逃げ切る事を諦めません!

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三章.転生聖女と春の庭

魔眼の人

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 「くやしい悔しい悔しいいいぃ」


 与えられた王宮内の客室でジタバタしながら騒いでいるのは勿論、トリステス帝国の第一皇女ロザリアである。


「なんで、私のミゲル様にあんな女がくっついてるのよお! 」


 むしろ妖精姫ベタベタ触られてた。

 恋は盲目と云うけれど、彼女の場合は、眼球に何かな? セロハン紙でもくっついてるのかもしれない。

 ちゃんと見ろよ。


「オマケに王妃に釘を刺されるし! 」


 それはアンタが悪い。あおるからだ。


「護衛も魔道士も私の事を威嚇いかくするし! 」


 以下同文。


「もう宜しいですかね、ロザリア姫」


 呆れた顔で白い髪に赤い目の護衛が、茶器にお茶を入れる侍従に銀のスプーンを渡す。

 侍従はカップに紅茶を入れてスプーンで確認をした後、護衛にカップの載った銀盆を渡して一礼をすると控室へと下がっていった。


「まあ、ロザリア。俺の部屋で騒ぐのはいいが、いささかお行儀が良くないね」

 
 護衛に渡された紅茶を口に運びながら、カイル皇子が妹をたしなめる。


「だって悔しかったんですもの」


 膨れっ面で、睨まれても仔犬のような容姿の彼女の睨み方では、笑いを誘うだけなのでやめて欲しい。


「大体、茶会初日は参加は不可と言ってあったはずだし、勝手にハイドランジアの物見の塔に登るとか、何でそんな事をするのかな? 」


 父によく似た兄が優しく問うが、ちっとも顔は優しくはない。片眉が吊り上がって怒っている。


「だって、ミゲル様をひと目だけでも見たかったのよ! 」

「彼との婚姻は無理だと最初から言ってあったろう? 」

「分かってても諦められないんだから仕方ないじゃない! 」


 はぁ~ とため息をつく皇太子。


「ロザリア、お前の気性とマナーでは他国の王族との婚姻は無理だ。ましてや彼は、『剣聖』と云う称号まで授かった王弟だぞ。帝国でも有名な我儘娘の婿に来てくれるわけ無かろう! 」

「私が彼の所にお嫁に行くのよ! 」

「お前を国外に嫁などと、我が国を滅ぼす気か? 」

「お兄様 冗談でも酷い!」

「いや。至極真当しごくまっとうにそう思ってるぞ。お前を国外しかも王族の元に嫁に出すなど災厄の輸出にしかならん」

「ひどおいいい! 」


 今迄で一番デカい声を張り上げた所でドアをノックする音が聞こえた。

 返事をすると、リンダだったので招き入れる。


「皇太子さま、申し訳ございませんでした。私の監督不行き届きで御座います」


 リンダが深々と頭を下げて謝罪すると皇子が片手を上げる。


「ああ、大丈夫だ問題ないよ」

「果たしてそうでしょうか友好国とはいえ、聖王陛下を抱えるハイドランジア王国の不興を買うような真似を皇女様にさせてしまった事を止められなかった私の落ち度は、おとがめを受けて当然かと」

「リンダ」

「はい。皇太子さま」

「そういうのコイツの家庭教師カヴァネス辞める理由にならないからね」

「・・・チッ」


 弟でもある護衛騎士のディーンが肩を揺らして笑いをこらえているのを冷たい目でギロリと眼鏡の奥でにらむリンダ。

 それを見て増々笑いそうになるのを必死な顔で我慢するディーン。


「それでは引き続きロザリア皇女のお世話が罰ということですね」


 カイル皇子が口に手をやりプッと噴いて


「うん、そう思ってくれていいよ」


 そう言った。


「ねえ酷くない? 」


 膨れっ面で一連のやり取りを見ていたロザリアが一言呟いた。


××××××××××


「ディーン、塔に登ってみてどうだったの?」


 白髪の騎士がニッコリ笑い


「魔道士にも王妃にも全て、いましたね。むしろ一緒に連れて行ってもらいましたね転移魔法で無理矢理。階段使っても良かったとんですけど許して貰えませんでしたね~ 」

「ふうん。君の隠蔽いんぺい魔法は中々バレないって、本国では有名なのになあ」

「流石は魔法国家ハイドランジアです。ほとんどの者が魔力を保持していてしかも使いこなしていますね。今だって全部筒抜けですよ。城中を魔道士やら魔法騎士やら間諜やらが姿を消したまま動き回ってます。オマケに子供も」

「子供? 」

「はい。幼いながら物凄く隠蔽にけた子供が、アチコチに出没してます。さっきリンダに付いて出ていきました。結構この部屋も物色してましたね」

「・・・なんで報告しない? 」

「ロザリア姫に付いて来たんですが、どうせすぐ居なくなるだろうと思いましたので。あれはハイドランジアの王子達ですよ双子の。じっと見てたら手を振って出ていきました。どうも姫を見張ってるようですね。子供にまで警戒されるってどうなんですかねぇ」


 額を押さえながら、


「ロザリアはだから警戒されても仕方無いとはいえ・・・参ったな・・・」


 と皇子が言うと


「貴方がこの国に来ちゃったからついてきたんでしょう? 」


 コテンと首を傾げた後で腕組みをするディーン。


「そうだが。これ程警戒されるとは思わなかったよ」

「私はどちらかというと、ハイドランジアがロザリア姫をよく受け入れたなと思いますがね。大体彼女の言い分は全て自業自得で、自分の勘違いですからね」


 そう返されてしまった皇太子である。
 


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お読み頂きありがとうございます!
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