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三章.転生聖女と春の庭
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しおりを挟むさて、このハイドランジア王国では貴族の未婚の男女が正式な場でのダンスを続けざまにニ曲以上踊ることは、かなりな親密度を表す基準となる。例えば婚約者同士であったり、両家でその話が持ち上がっている、若しくはそこまで行かなくても恋人同士であることを周囲に宣言していると言った風にである。
王宮に招かれた貴族の若者達は当然ソレを知っている訳で・・・
ホールで続けて二曲そのまま踊る王弟殿下と侯爵令嬢のカップルは当然目を引く存在になった。
「嘘だろ、俺次のダンスを申込もうと思ってたら・・・」
「そんな、殿下が・・・嘘ですわ」
「うわあ~、初見殺し・・・」
まあ、色んな声が上がってしまった。
美貌の王弟殿下は国民的に男女共に人気が高いが、未婚の貴族女性達にとってはアレクシス第一王子を除いて手に入れる事の出来る可能性のある最高位の独身男性であった・・・二曲目のダンスを踊りだす直前の瞬間までは。
そして現在三曲目に突入した。
独身貴族女性の最優良物件があっという間に社交界デビューしたばかりのご令嬢に見事かっ攫われたのである。
そして同様にアークライド侯爵家と言えば国内屈指の有力貴族。
その資産は王家を凌ぐとも言われている、筆頭侯爵家当主の愛娘がミリアンヌ嬢である。
聖女候補と名高く、見た目も文句なしに愛らしい美少女。連れて歩くにも、妻にするにも、男にとって名実共に最高峰に位置する女性である。
デビュタントを終えたばかりの無垢な深層のご令嬢でしかも莫大な持参金というオプションがガッポリ付いてくるであろうことは、父である侯爵の囲いっぷりを鑑みれば自白の名である。
そんな彼女が王家の初の試みである集団見合いの会場に現れるのだ。
全く期待しない貴族嫡男が少ないわけが無かった・・・
王弟殿下が彼女に近寄ろうとする令息達に目線の瞬殺冷凍ビームをにこやかな笑顔で放つ迄は。
まさに鳶に油揚げをさらわれる状態・・・
男女ともに下心付きでダンスホールに集まって来ていた者たちは、肩をガックリと落とす者、反対に怒りに肩を震わせる者、扇で顔を伏せる者。
悲喜こもごもである
それを見て大っぴらに騒ぐことは憚られるので、しないと決めてはいるのだが腹の中では大喜び! 拍手喝采しているのは、ご想像通り言わずとしれたエリーナ公爵令嬢である。
「うふうふ。めっちゃくちゃ楽しいわあぁ~、見て御覧なさいよアレクシス。身分も弁えず考え無しな輩の見本市だわよ~ 」
「エリー。しーっ! 声がデカいってば」
二人で細いコリンズグラスに注がれた果実水を口にしながら、ホールの端から音なき阿鼻叫喚の図を眺めているまっ最中。
「肩を落とす連中はまぁいいでしょう。可愛いものよ。けど、怒ってる連中は全て要注意よアレク」
「分かってるってば、ほら。あそこ」
アレクシスを振り返ると、目の動きで示された出入り口の扉の影で、クロードが何かの書類にペンを走らせているのが見えた。
「『王家の影』ほどじゃないけどね。自分の主催したパーティーの事は、ある程度把握しとかないとね。しっペ返しを喰うのは自分だから」
「やるじゃん、アレク」
「まあね。一応ハイドランジア王族としての責任があるからね」
ウェイターの捧げ持つ銀色のトレイに自分の飲み終わったグラスを優雅に置くと、扇を広げて自分の口元を隠し、
「アレクと私の時間が終わるまで、叔父様とミリアンヌ嬢と一緒にお茶でもしましょうね、アレクシス」
そう言いながらホールの真ん中で踊る御伽話の主人公達を嬉しそうに眺めるエリーナだった。
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