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117 戸惑い
しおりを挟むああ、この子をずっと前から俺は知ってる。
ずっと昔から待っていた、懐かしい自分自身に出会ったような気がする――
ふと、変な表現だな、と。
ハッと気が付いて、正気になれと自分に対して忠告する為に頭を振った。
「サーシャ嬢。すまない。つい失礼な真似をした」
そう言って彼女の手をそっと開放した。
彼女はそれまで日溜まりの猫のような気持ち良さそうな顔をしていた筈なのに、急に目を見開いて此方を見上げる。
綺麗な澄んだ色の明るい緑色が瞬いて、悲しそうに見えた気がした。
きっと俺の自惚れだ――
「・・・大丈夫です、失礼な事なんてされていませんから」
頬に触れたい――
急に中途半端に手を上げ、思いとどまった。
――駄目だ・・・
そのまま自分の首の後ろに手を添えて誤魔化す。
「すまない」
不思議そうな顔をする彼女をこれ以上見たら、自分の中の何かが変わりそうで怖かった。
「離婚歴のある年上の男なんかにこんな事言われたら困るよな。しかも俺は上司だ。君が嫌だと思っていても断れる訳がないからな」
そう言って、彼女から少しだけ離れてエスコートのために肘を差し出す。
「そんな事ありません、私は、」
俺は、彼女の言葉に態と自分の言葉を重ねた。
続きを聞きたくなかったんだ――
「ホールに戻ろう。チャーリーがきっと探してるだろうから」
「・・・そうですね」
彼女は、そう言って俺の差し出した肘に手をそっと置いた。
ホールに向かい彼女と共に歩き出した時、彼女を愛おしいと思う自分の気持ちと何故かこの場から逃げ出したくて堪らないという相反する気持ちに俺はひたすら戸惑っていた。
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