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第一部 運命
やさしさで、包む
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違和感は、目に見えない。
だが陽臣は、それを察知する。
月那の指先の力。
眠る前の一瞬の躊躇。
視線が合ったときの、わずかな揺れ。
誰も気づかない。
だが陽臣だけは、分かる。
月那は、少しだけ遠くなった。
距離ではない。
心の角度だ。
なら、整え直せばいい。
学芸会の練習は続いていた。
放課後。
「天城くん、主役のフォローに入ってくれない?」
先生の何気ない提案。
偶然。
だが、陽臣は迷わない。
「いいですよ」
「はるくん、いっしょ?」
「うん。るなが安心できるように」
やさしい声。
月那の胸が、軽くなる。
違和感が、溶ける。
やっぱり、はるくんは、やさしい。
練習中。
相手役の少年が台詞を間違える。
小さなミス。
陽臣が先に言う。
「ごめん。俺が余計なこと言ったから」
責めない。
怒らない。
自分に引き取る。
少年は戸惑う。
月那は安心する。
はるくんがいる。
大丈夫。
その瞬間。
少年の立ち位置が、ほんのわずかにずれる。
中心が、静かに動く。
誰も気づかない。
けれど空気は変わる。
帰り道。
「きょう、たのしかった」
月那が言う。
「よかった」
陽臣は微笑む。
「るな、無理しなくていいからね」
「してないよ?」
「うん。でも、不安なら俺が全部やる」
全部。
その言葉は軽い。
けれど意味は重い。
月那は笑う。
陽臣も笑う。
心配しているわけではない。
管理しているだけだ。
るなの揺れを。
夜。
月那は、安心して眠る。
違和感は薄れている。
やさしさに包まれて。
隣で陽臣は目を開けたまま考える。
遠くなる前に、近づければいい。
不安になる前に、埋めればいい。
他を見る前に、視界を満たせばいい。
怒らない。
締めつけない。
ただ、包む。
逃げ場がないほどに、やさしく。
「るなは、ぼくの」
確認ではない。
再調整だ。
遠い記憶の底で、炎が揺れる。
夢の中では壊した。
城を。
国を。
世界を。
だが現実は違う。
壊さなくても、手に入る。
整えればいい。
包めばいい。
選択肢を減らせばいい。
陽臣は目を閉じる。
月那は安らかな顔で眠っている。
違和感は消えた。
――消された。
世界はまだ静かだ。
けれど。
包み込まれた檻は、外からは見えない。
内側にいる者だけが、やがて気づく。
息が、少しずつ浅くなっていることに。
だが陽臣は、それを察知する。
月那の指先の力。
眠る前の一瞬の躊躇。
視線が合ったときの、わずかな揺れ。
誰も気づかない。
だが陽臣だけは、分かる。
月那は、少しだけ遠くなった。
距離ではない。
心の角度だ。
なら、整え直せばいい。
学芸会の練習は続いていた。
放課後。
「天城くん、主役のフォローに入ってくれない?」
先生の何気ない提案。
偶然。
だが、陽臣は迷わない。
「いいですよ」
「はるくん、いっしょ?」
「うん。るなが安心できるように」
やさしい声。
月那の胸が、軽くなる。
違和感が、溶ける。
やっぱり、はるくんは、やさしい。
練習中。
相手役の少年が台詞を間違える。
小さなミス。
陽臣が先に言う。
「ごめん。俺が余計なこと言ったから」
責めない。
怒らない。
自分に引き取る。
少年は戸惑う。
月那は安心する。
はるくんがいる。
大丈夫。
その瞬間。
少年の立ち位置が、ほんのわずかにずれる。
中心が、静かに動く。
誰も気づかない。
けれど空気は変わる。
帰り道。
「きょう、たのしかった」
月那が言う。
「よかった」
陽臣は微笑む。
「るな、無理しなくていいからね」
「してないよ?」
「うん。でも、不安なら俺が全部やる」
全部。
その言葉は軽い。
けれど意味は重い。
月那は笑う。
陽臣も笑う。
心配しているわけではない。
管理しているだけだ。
るなの揺れを。
夜。
月那は、安心して眠る。
違和感は薄れている。
やさしさに包まれて。
隣で陽臣は目を開けたまま考える。
遠くなる前に、近づければいい。
不安になる前に、埋めればいい。
他を見る前に、視界を満たせばいい。
怒らない。
締めつけない。
ただ、包む。
逃げ場がないほどに、やさしく。
「るなは、ぼくの」
確認ではない。
再調整だ。
遠い記憶の底で、炎が揺れる。
夢の中では壊した。
城を。
国を。
世界を。
だが現実は違う。
壊さなくても、手に入る。
整えればいい。
包めばいい。
選択肢を減らせばいい。
陽臣は目を閉じる。
月那は安らかな顔で眠っている。
違和感は消えた。
――消された。
世界はまだ静かだ。
けれど。
包み込まれた檻は、外からは見えない。
内側にいる者だけが、やがて気づく。
息が、少しずつ浅くなっていることに。
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