輪廻の誓いは、愛になる

帰り花

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第一部 運命

月が砕ける夢

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 その夜。
 月那るなは、夢を見た。
 最初にあったのは、音だった。
 遠くで何かが崩れる音。
 重く、鈍く、繰り返される衝撃。
 目を開ける。
 空が赤い。
 夕焼けではない。
 燃えている。
 城のような建物が崩れ、
 石が砕け、塔が折れ、火の粉が舞う。
 なぜか分からないのに、理解している。
 ここは、終わるのだと。
 足元が揺れる。
 逃げなければ。
 そう思うのに、動けない。
 腕を掴まれている。
 強い腕。
 逃がさない腕。
 怖いわけではない。
 けれど、息が詰まる。
「……ルナ」
 声が聞こえる。
 低い声。
 知っているはずなのに、知らない。
 振り向く。
 赤い瞳が、こちらを見ている。
 炎の色。
 必死な目。
 壊れかけた目。
「もう離れない」
 その声は優しい。
 優しいのに。
 世界が崩れる音と、重なった。
 空に浮かぶ月に、ひびが入る。
 白い円に亀裂が走り、
 音もなく砕ける。
 破片が落ちていく。
 闇の底へ。
 その光景に、なぜか胸が締めつけられる。
 失う痛みではない。
 閉じ込められるような感覚。
 月那は、そこで目を覚ました。

 真夜中。
 息が浅い。
 胸が、わずかに痛む。
 暗闇の中で天井を見つめる。
 隣には陽臣はるおみがいる。
 穏やかな寝息。
 静かな呼吸。
 夢の炎と、この静寂は結びつかない。
 違う。
 はるくんは、あんな目をしない。
 あんなふうに、壊れそうな顔はしない。
 なのに。
 胸の奥が、きしむ。
「もう離れない」
 その言葉だけが、耳に残る。
 どうして、あんなに重かったのだろう。
 どうして、世界が壊れる音と一緒だったのだろう。
 月那は、そっと寝返りを打つ。
 陽臣の顔を見る。
 月明かりが、静かに輪郭をなぞる。
 整った横顔。
 穏やかな表情。
 けれど。
 まぶたの奥に、深い影が潜んでいる気がした。
 夢の中の赤い瞳が、重なる。
 月那は、無意識にほんの数センチ、距離を取ろうとする。
 その瞬間。
 陽臣の指が、すぐに袖を掴んだ。
 眠ったまま。
 反射のように。
 離さない。
 月那の心臓が、大きく跳ねる。
「……はるくん?」
 小さく呼ぶ。
 返事はない。
 ただ、指先の力が、わずかに強まる。
 まるで。
 どこにも行かせない、と言うように。
 月那は、もう一度目を閉じる。
 夢の残滓が、まだ胸の奥にある。
 燃える城。
 砕ける月。
 赤い瞳。
 そして。
 “離れない”という言葉。
 怖い、とは思わない。
 けれど。
 あれは、やさしさではなかった。
 あれは。
 願いではなく。
 縫い止めるような、意志だった。
 まだ名前はつけられない。
 けれど確かに。
 月那の中で、何かがわずかにずれた。
 秋の夜は深い。
 世界は壊れていない。
 何も起きていない。
 それでも。
 夢は、嘘をつかない。
 砕けた月の音だけが、
 静かに、心の底に残っていた。
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