18 / 77
18
しおりを挟む「よし、ひとまず大丈夫そうだな、外傷も擦り傷だけだ」
何故真斗がここに、という疑問に答えが出ないまま、春翔は真斗の診察を受け、「腹が減っているだろう」と、真斗は特製の薬膳粥を持ってきてくれた。小さなちゃぶ台を出し、その上にお椀とお茶が置かれる。ふわりと湯気の昇る粥は、口にすれば体の隅々、心までを温めてくれるようで、その優しい味わいに春翔はほっと息を吐いた。実感はないが、三日振りの食事に体が喜んでいる気がする。勿論、真斗の料理の腕前が確かなのは言うまでもない。しかし、それで疑問が消える訳ではない。春翔にとって真斗は、従兄弟であり兄貴分だ。今まで色々な話をしてきたが、彼が医者だったとは聞いた事がない。それもただの医者ではない、だってここは、妖のいる家だ。
「まさか、真兄も人じゃないの…?」
思い至った答えに、春翔が恐る恐る尋ねれば、真斗はきょとんとし、やがてそれは笑い顔に変わった。
「ははは、神妙な顔して何言うかと思えば、俺は正真正銘、人間だよ」
「…なんだ、良かったー…」
「そりゃそうだよね」と、笑みを返す春翔の表情に、真斗もほっとした様子で一つ息を吐いた。
「俺も良かったよ」
「ん?」
「お前を鈴鳴川に向かわせたのは俺だからな、人に被害が及んだって聞いた時は、まさかと思って生きた心地がしなかった…本当、無事で良かった」
それから、「悪かった」と頭を下げた真斗に、春翔は慌てて頭を上げさせた。
「真兄までやめてよ、大丈夫だと思ったからリュウさんの居場所を教えてくれたんでしょ?真兄は何も悪くないよ。それに、皆さんのお陰で、こうして何事も無かったわけだし」
その言葉に、真斗は申し訳なさそうに微笑んで、「お前はそういう奴だよな」と、春翔の頭をくしゃりと撫でた。
「まぁ、今回はな。カゲは暫く力を使えないだろうし、桜千のお陰で、右足に後遺症が残る事も無いだろう」
カゲ、という言葉に引っ掛かりを覚えたが、それよりも先ず、春翔には確かめなくてはいけない事がある。
「あの、真兄って、お医者さんだったの?」
春翔が尋ねると、真斗は「あー」と言い淀み、「実はな」と続けた。
「医者はな、本当は妖専門っつーか…。これは、十禅の家に受け継がれてきた事だから、親戚のお前達にも知らされてないんだ。十禅の家は、代々妖の世と人の世を守る為に、妖の術や医術を受け継いでいる。まぁ、何かあった時にさ、妖の体だけじゃなく人の体も診れた方が良いから、ちゃんと勉強して医師免許も持ってる。知り合いの病院で、一応医者として働いてるんだよ。そこの先生も、妖に関わりのある医者なんだ、お前の傷も大丈夫だとは思うけど、ちょっと特殊だからな、一応その先生にも診て貰った方が良いかもな」
話しながら思案する真斗に、春翔は思いもしなかった従兄弟の秘密に理解が追いつかず、ぽかんとしている。そんな春翔の様子に、「まぁ、信じがたい話だよな」と苦笑いを浮かべた。
「真兄を疑ってるわけじゃないよ!ただ、想像もしない話だったから…十禅のお家だけって事は、母さんも知らないの…?」
春翔と真斗は従兄弟なので、春翔の母親と真斗の父親は兄妹だ。
「多分、何となくは知ってるんじゃないか?詳しく聞かされてるかは分からないけど、子供の頃は親父と一緒に育ってるしな」
「…僕が聞いて大丈夫な話だったの…?」
「こんな事にならなきゃ話す事はなかったけど、ここまで関わったからな。傷の手当てもあるし。ただ、他の奴らには…和喜達には言わないでくれると助かる。話す必要が出てきたら、また別だけどさ」
「…うん、分かった」
そう頷きはしたものの、春翔にとっては、鈴鳴川の出来事だって、まだ夢を見ていたかのような感覚だ。ゼン達が妖だという事も、分かってはいても上手く呑み込めない所があるのに、更には身内に妖と関わりがある者がいたなんて。
十禅家と過ごした日々をいくら思い返しても、変わった出来事など一つも思い当たらない、いつだって十禅の皆は、どこにでもある普通の家族だった。
完全にキャパオーバーな様子の春翔に、「まぁ、すぐには受け入れらんねぇよな」と、真斗は苦笑い、固まる春翔の頭をくしゃりと撫でた。春翔の気持ちに理解を示し続けてくれる真斗にほっとしつつ、春翔はそう言えばと、顔をあげた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―
たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。
以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。
「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」
トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。
しかし、千秋はまだ知らない。
レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる