鈴鳴川で恋をして

茶野森かのこ

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「リュウさん達とは、昔から知り合いだったの?」

真斗まことの優しさに、少し肩から力が抜けたようだ。春翔はるとは戸惑いながらも、理解を深めようと問いかけた。

「十年位前だったかな、本格的に妖の医術を受け継ぐって決めた時に紹介されてからだな。妖の存在は物心ついた時から聞かされてたから、どんな化けもんかと思ったら三人共スゲーイケメンだろ?逆にビビったな」
「ふふ、妖ってあんなに綺麗な人ばっかりなのかな」
「いやー奴らは特別だな。こっちの世界で人に化けて暮らしてる奴らとかは、元が人型であってもそうでなくても、わざと綺麗な顔に化ける事は無いみたいだ。ゼン達は元が良いんだろうな」
「へぇ…妖ってそんなにいるの?」
「あぁ、役職を持ってこっちに来た奴もいれば、昔から暮らしてる妖もいるし、人と家庭を持ってる奴らもいる。
妖の世を守る為に続いてる人間の家系も、うちだけじゃないんだ。互いが協力していかないと、二つの世界の秩序が乱れてとんでもない騒ぎが起こる可能性がある…今回の件でなんとなく分かるだろ?」

言いにくそうに告げられ、鈴鳴川すずなりがわで蛇女に襲われた恐ろしさを思い出す。もし、あの蛇女が町に下りて他の人間を襲ったりしたら。そう考えると、被害は襲われた当人だけに止まらず、蛇女を目撃した人はその正体を暴こうと動き出し、何の悪事を働いていないリュウジ達も、平穏に暮らす事はできなくなるだろう。

「…認めてくれとは言わないけど、そういう存在がある事、怖い奴らばかりじゃない事は…出来ればあいつらの事は信じてやってほしい。怖い思いをさせたのに、言える義理じゃないけどさ」
「そんな!リュウさんやユキさんにはいつもお世話になってるし、ゼンさんにも助けて貰って、怖いとかは思ってないよ!」

慌てて言い募れば、真斗は嬉しそうに笑った。

「ありがとな、そう言ってくれるだけで有り難いよ、本当」

それからふと時計に目を向けると、真斗は申し訳なさそうに顔を歪めた。

「悪い、そろそろ店に戻るな、仕込みがあるんだ」

傍らに出していた医療道具を革の鞄にしまい、真斗は立ち上がった。

「そうだ、ゼンには今晩も泊めるように言ってあるから、明日もう一日は絶対安静だからな」
「え、でも、僕元気だよ?」
「これは医者からの命令だ」
「…分かったよ」

医者に言われたら、言うことを聞かざるを得ない。

「まぁ、店はここから近いから、何かあったらすぐ飛んできてやるよ。明日の朝、また飯作りに来るしさ」
「本当?」
「あぁ、ここの家、飯作れる奴居ねぇんだよ、リュウジは寮に帰っちまうだろ?」
「ふふ、まこ兄のご飯を食べれるのは得だな」
「感謝してほしいもんだよ全く」
「あはは」

笑い合いながら春翔も立ち上がり、玄関まで見送る為、二人で部屋を出た。廊下を歩くと、少し床が軋んだ。賑やかな声と共に風が流れてくる、見ると縁側の戸が開いており、庭が見えた。
居間に向かうと、早速リュウジとユキが口喧嘩を始めていた。その姿を見留めると、真斗は何の躊躇いもなく二人の首根っこを掴み上げ、笑顔で脅しにかかる。真斗の手にかかれば、長身のリュウジとユキも、先程の狸と狐のように可愛らしく見えてしまうのが不思議だ。
それにより、この家での真斗の存在の大きさを感じた春翔は、妖の世界でも、真斗は妖を従えたりしているのだろうかと、尊敬と恐れが入り混じった複雑な感情を抱いたが、改めて三人の姿を見れば、そこからはすぐに笑い声が聞こえてきた。
「信じてやってほしい」と言った真斗の言葉を思い出す。こんな風に真斗は、二つの世界、人と妖を分け隔てなく接し、そしてお互いを信じて生きてきたのだろう。笑い合う妖と人の姿は、今まで見てきた人同士のそれと何も変わらない。

そっか、何も変わらないんだ。

妖でも、リュウジはリュウジで、ユキはユキで。心根は変わらない。春翔は三人の笑い声に背中を押された気がして、温かな居間の中へと入っていく。
そこに、ゼンの姿は見当たらなかった。


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