鈴鳴川で恋をして

茶野森かのこ

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「二つの世界を行き来するには、さっきも言ったが、許可が必要なんだ、妖の国の許しがな。それは、妖が何の目的で人の世に行くのか知る為だ。人の世に行ける理由は様々あるけど、嘘はつけない。桜千おうせんの前に通されるその前に、厳しいチェックが入るからな」
「人の世で悪い事して稼ぎたいとかさ、ろくな事を考えない奴がどの世界にもいるんだよ。だから、厳しいチェックなんか受けてられるかって、二つの世の境界の抜け道を見つけようって輩がいるんだ」
「じゃあ、そういう人達がこっちに来てしまった時に対処するのが、ゼンさんの役目なんですか?」
「そういう事だね、ゼンは二つの世の守り番ってとこ。俺達はこれでも妖狐の国の役人だから、ゼンを助ける為に一緒に来たんだ。お互い役職が違うから、来た時期はバラバラだけどね」
「役職?」
「うん、俺は管理職についてたから、引き継ぎが色々大変でさ、暫くは行ったり来たりだったんだけど、そしたらいつの間にかリュウが女の子達にキャーキャー言われててさ、さすがにあれには能力の高い自分を呪ったね」
「どういう意味だよ」
「俺が出世してなかったら、早く人の世に行けたわけじゃん。俺の方が美しいわけだし?リュウの成功なんて目じゃないのにさ」
「俺がお前に劣るっていうのか?」
「え?自覚ないのかい?リュウなんか体力だけだろ」
「体力だけで、隊のナンバーツーになんかなれるかよ!それにお前は芝居出来るのか?ただ舞ってるだけじゃ話になんねぇんだぞ!」
「あ、ちょっと今、俺の舞をバカにしただろ!今すぐ舞って、キミを川の底に沈めたって良いんだけど!?」
「やれるもんなら、」
「ス、ストップ、ストップ!なんで喧嘩してるんですか!お二人の凄さはわかってますから!」

春翔はるとが再び仲裁に入ると、二人はふいっと互いにそっぽを向き、立ち上がりかけた腰を落ち着けたので、春翔もほっとして座り直した。
いくら和喜かずきが突っかかっても怒らないリュウジも、ユキの前では糸もたやすく大人の仮面を脱ぎ捨てる。それはきっと、腹を割って話せる信頼の証しでもあるのだろう。改めて二人の仲の良さを感じた春翔だが、こんな事を本人達に言ったら、また喧嘩を始めてしまいそうだ。
とにかくこの不機嫌な空気を変えなければいけないと、慌てて口を開いた。

「えっと、じゃあ!あの時リュウさんが鈴鳴川すずなりがわに居たのも、映画の下見ではなく妖のお仕事をされてたんですか?」
「あぁ、万が一、撮影中に妖が出て来たらまずいからな、鈴鳴川で撮影する三日間だけは、絶対に出入りさせないよう入念に結果を張っておいたんだよ」
「互いの世の為に、二つの世を行き来している奴らも多いから、こっちの情報が妖の耳に入る事も多いんだ。撮影を邪魔して騒ぎを起こしたら、人間達が騒ぎたてるって事も分かってるんだよ。それを利用して悪さしてやろうとかさ、妖も暇だよなー」

ユキは呆れたように肩を竦めた。

「自分を売り込もうって妖もいるな、俺に続いてユキも人間に騒がれ始めたから」
「何が何でも売れるわけないってのにね。結構これでも神経使って人の生活送ってるんだよ?」

妖には蛇女のような凶暴な者も多いのかと思っていたが、もしかしたらそうではないのかもしれない。姿や能力が違うだけで、考え方に差はないのだろう。

「…そういえば、リュウさん達はどうして人前に出る仕事を選んだんですか?バレたら大変なのに」

リュウジ達が妖だとバレた場合、姿を晒さなければ大丈夫なのかもしれないが、神経を使っているというんだから、そんな簡単な事ではないのだろう。
ふと思いたった疑問をぶつけてみると、リュウジとユキは揃って頬を緩めた。

「お前を見つける為だよ」
「…僕、ですか?」

春翔は、きょとんと目を瞬いた。



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