鈴鳴川で恋をして

茶野森かのこ

文字の大きさ
23 / 77

23

しおりを挟む


「ゼンとはるちゃんの出会いから話そっか。二人が会ったのは偶然だったんだ。よくゼンは、スズナリって妖に会いにあの川に来てたから。スズナリはね、ゼンの前に境界の守り番をやってた妖なんだ。
ゼンは、王子って立場上、妖から妬まれる事もあったから、こっちの世界の方が居心地良かったんだと思う。あ、家族仲はすっごく良いんだけどね」
「弟なんか極度のブラコンだしな」

弟がいるんだ。自分と同じだと感じていると、ユキもその弟を思い出したのか、リュウジに同意して笑った。

「まあ、そんな時にさ、春ちゃんと会ったんだって。俺はその場に居たわけじゃないから詳しいきっかけは分からないけど、一緒に遊ぼうって言ってくれて、それが嬉しくて楽しくて、いつも春ちゃんが来るのをあの川で待ってたって言ってた」
「いつも?」
「うん、ほぼっていうか、毎日だね、あれは。気づいたらゼンの姿が見えなくて、よく探し回って大変だったよ」
「俺らはガキの頃からゼンのお目付け役っつーか、遊び相手だったからさ、よく教育係にどやされたな」
「そーそー!でも、こっちの世界にいるゼンは楽しそうだったからさ、今日もゼンの為に怒られてやるかーって感じでさー」
「感謝してほしいもんだよな」
「うわ珍しくリュウと意見あったんですけどー」
「ふふ」

春翔が笑うと、二人はどこかほっとした様子で、表情を緩めた。

「…でもね、そんな時、ゼンを狙う妖が現れて、傷つけられた事があった」
「え」
「こっちにいれば、川の側ならスズナリも居るし、桜千も居るから襲ってくるような奴はまず居ないだろうって思ってたんだけど、その考えが甘かったんだ」

リュウジの言葉に、ユキも表情を曇らせ頷いた。

「王族っていうか、ゼンに対して恨みのある妖でね。抜け道か何かを使ってこっちの世界に入り込んで、ゼンが護衛もつけずに居るのを知って命を奪おうとしてきた…キミを浚って囮にして」
「…僕、を?」

妖の囮にされた、全く身に覚えのない話だった。だが、それよりも衝撃的だったのは、ゼンが命を狙われていたという事だ。春翔はるとは思わず身を乗り出した。

「ゼンさんは大丈夫だったんですか?」

今のゼンを見る感じでは元気そうではあったが、もしかしたら、目に見えない傷を負っているのではないか。途端に心配に表情を歪めた春翔に、ユキとリュウジはそっと笑みを交わした。自分の事よりも、ゼンの事を心配してくれる春翔の気持ちが、ゼンを慕う二人にとっては嬉しかったのだろう。

「ゼンは大丈夫。その時は大変だったけど、もう傷はすっかり癒えてるよ。勿論、キミの事もちゃんとゼンは取り返した」

ユキの言葉に、春翔はほっとした。それと同時に、その時もゼンが助けてくれていたのかと、それを思うと胸の奥が少しこそばゆいような思いだった。

「でも、相手の方が一枚上手だった」
「え?」
「俺達はゼンのお目付け役も兼ねてたから、桜千おうせんと連絡を取り合っていたんだ。俺が連絡を受けてこちらに来た時には、ゼンとスズナリとで妖を追い払った後で、キミもゼンも傷を負って意識を失っていて、スズナリも…ダメージは大きかった」

そこでユキは言葉を切り、それから表情を曇らせた。

「状況は悲惨だったけど、そんな事言い訳にならないね」
「…ユキさん?」

申し訳なく言うユキを不思議に思って声を掛けると、ユキは「ごめん!」と勢いよく頭を下げた。春翔は慌てて再び身を乗り出した。

「な、なんで謝るんですか?やめて下さいよ…!」
「いや、謝らなきゃいけないんだ、俺からも謝らせてほしい」
「ま、待って下さい、リュウさんまで!僕もゼンさんも無事だったんですから、むしろ僕は皆さんに感謝しなくてはいけません。僕は昔の事は覚えていませんが、助けて頂いたんですから」
「その記憶を失った原因が、その時の妖の力によるものだとしてもかい?」
「え?」

ユキは顔を上げたが、その顔はまだどこか苦しげで、春翔は不安になる。その様子に、リュウジが続きを引き継いだ。

「俺はその場に行く事が出来なかったから詳しくは言えないけど、追い払った妖は、春に…妙な術をかけたんだ。そのせいで春は記憶を失った」
「本当はあの時、春ちゃんの近くで妖の気配を何となく感じてはいたんだ。でも、その気配がどの妖のもので、それがもたらす意味が俺には理解出来なかった。妖は追い払ったはずだし、何よりキミ達の傷の手当てが先だと思ったから。すぐに人の子の姿になって、春ちゃんを病院に連れて行った、場所さえ分かればまたすぐに会いに行く事が出来ると思ったから。でも…ゼンやスズナリの容体が思ったよりも悪くて、二つの世の入口が一時的に閉ざされてしまったんだ。
開かれてからは、ゼンも一緒にすぐにキミに会いに行ったけど、病院にはもう居なくて、あの川原でもキミに会うことはなかった」
「記憶がなかったから…?」
「そうだね、でも俺達はその事を知らなかったから、きっとキミが怖い目にあったからもう会いに来てはくれないんだと思った。当然だよね、俺が春ちゃんの立場なら、そう思ったと思う。でもゼンは諦めなかった。俺達もちゃんと謝らないとって思ってたから、ずっとあの川原でキミの事を探してた。…でもね、これだけじゃ済まない事態が起きていることを知ったんだ」
「…どういう事ですか?」
「追い払った妖は、キミに術を残して消えた。それは記憶を失くす為の術じゃない、キミを再び見つけ出して囮にする為の、印のようなもの。あの妖は力を回復して、またゼンを襲うつもりらしい」
「え、」

思いをよらない言葉に、春翔は固まってしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

処理中です...