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「ごめんね、突然こんな事信じられないよね。でも、本当なんだ」
「…ぼ、僕はどうしたら」
「安心しろ、春。俺達はお前を見つけたんだから。どこに居るか分からなかったから守れねぇが、今度は妖に利用される前にお前を守る事が出来る」
「ほんと、間に合って良かったよ。元々ゼンが情報を集めたり小説を書いたりして世の中に発信してたけど、もう時間も惜しかったからさ、リュウが役者になったのもゼンの小説を広める為だったんだ。鈴鳴川で妖の物語が繰り広げられれば、春ちゃんがまたあの川に来てくれるんじゃないかって。俺がメディアに出だしたのも、神社を春ちゃんに意識させる為なんだよ」
「お前のは、ほぼ俺への対抗意識だろ」
「はあ!?なんで俺がリュウなんかに対抗心燃やさないといけないわけ!?」
「悔しがってたもんなー人気出ちゃったからなー」
「何言ってんの!?俺は」
「ま、待って下さい!」
再び始まる口喧嘩に春翔は慌てて間に入る。
なんだか今、凄い事を聞いた気がする。
「ゼンさんって小説書いてるんですか?もしかしてそれって、」
ゼンという名前、小説、妖、鈴鳴川。全て藤浪ゼンへと繋がっているように思うのは、気のせいではきっとない。春翔の背にひやりと汗が伝った。
「あぁ、ゼンがその藤浪ゼンだ」
まさか、焦がれて焦がれて仕方なかった藤浪ゼンが、あのゼンだったなんて。そうして思い起こされるのは、鈴鳴川から先程までの出来事で。なんて失礼な態度を取ってしまったんだろうという後悔と、彼に抱きしめられた温もりが一気に押し寄せてきて、春翔はたまらず頭を抱えて身もだえた。
そして、はっとする。
「先生…ゼンさんはずっと僕を探してくれてたんですか…?」
「うん、無事の確認や謝罪したい思いもあったと思うけど、ただもう一度会いたかったんだと思うよ。会っていいのか迷いは今もあるみたいだけどね」
「そう、ですか…」
ぎゅ、とゼンに抱きしめられたような気がして、春翔は頬を赤くし顔を俯けた。その様子を見て、ユキはどこかほっとした様子だ。
「やっぱり会わせて良かった」
「え?」
「勿論、あんな危険な状況だったのは大誤算だったけど、春ちゃん見つけてからずっと悩んでたんだよ。春ちゃんとゼンを会わせるべきか」
「どうしてですか?僕が危ないからですか?」
「あー違う違う!俺達が心配してたのは、春ちゃんの気持ちの方」
不安気に瞳を揺らす春翔に、ユキは慌てて反論し、それから困ったように笑った。
「春ちゃんが記憶を失ってるのは、妖の力のせいだけとは限らないでしょ?忘れたいくらい怖い記憶だったとしたら、ゼンに会うことで、また怖い記憶を思い出させてしまう事になるんじゃないかって。もし拒絶されたらどうしようって、ゼンはそれを恐れてたから、春ちゃんが思い出せるまで会おうとしなかったんだ。でも、もう時間がなかった」
「時間?」
「お前やゼンを襲った妖の力が回復しつつある。今回の事で、また少し猶予は出来ただろうが、奴が動くのは時間の問題だった」
「何も知らないでこっちの事情に巻き込む前に、説明しないとって。まぁ、結果的に何も知らないまま巻き込む形になっちゃったけど…」
ごめんね、と再び眉を垂れるユキに、春翔は謝らないで下さいと改めて首を振る。
「言い訳になるけど、本来なら、鈴鳴川の周辺は、人も妖も無意識の内に近寄らせない結界を張ってあったんだ。蛇女が現れたからな」
「春ちゃんもその対象となっていた筈なんだけど、妖の力の影響かな…」
「…そういえば、土手を下りようとした時、凄い音が頭に響いて、でも鈴の音が何度かしたら、楽になったんです。それが妖の力ですか…?」
すると、ユキとリュウジは顔を見合わせた。リュウジは思案顔で、ユキは「なるほど」と呟く。何かおかしな事を言っただろうかとおろおろする春翔に、ユキはぱっと表情を切り替えた。
「まぁ、そういうわけだからさ!色々怖い思いをさせたけど、この先何があっても俺達が春ちゃんを守るから安心してね!それで出来れば妖のこと…ゼンだけでも嫌わないでほしい」
「そんな、勿論ですよ!そりゃ驚きもしたし、今もまだ信じられない事でいっぱいですけど…嫌ったりなんてしません!」
身を乗り出し力いっぱい伝える春翔に、ユキはほっとした様子で微笑んだ。
「それ聞いて安心した」
「まぁ、春は俺といる時間の方が長いからな。今まで通り、何かあったらいつでも頼ってくれていいからな」
「ちょっと!長いって言ったって、お仕事が忙しいスター様は、寮を空ける日も多いんじゃない?それに比べて俺ならすぐに会いに行けるし?春ちゃん、体力バカより俺の術の方が遥かに役にたつよ!」
「お前な、」
「何だよ」
「ちょ、ちょっとなんでまた喧嘩してるんですか…!」
そうして再び巻き起こる賑やかな掛け合いに、春翔はやがて止めるのを諦め、ここに居ないゼンの事を思った。
ゼンの本は何度も読んだ。それが、自分を見つける為に書かれたものだったなんて。何度も繰り返し二人の思い出を読んでいたのに、気づけなかった。思い出せなかった。ゼンはどんな思いで鈴鳴川で待っていたのだろう。
ふと、ゼンと鈴鳴川で会った時の事を思い出す。傷ついた自分を見て、とても心配そうに、まるで自分の事のように怒り、悲しんでくれたゼン。何年も何年も、顔を合わせたってゼンの事を思い出せないのに、それを分かっても優しくしてくれた。
思い出したい、あの鈴鳴川で起こった事全て。
思い出してあげたい。
きっと失った思い出は、悪いことばかりじゃないはずだから。
「…ぼ、僕はどうしたら」
「安心しろ、春。俺達はお前を見つけたんだから。どこに居るか分からなかったから守れねぇが、今度は妖に利用される前にお前を守る事が出来る」
「ほんと、間に合って良かったよ。元々ゼンが情報を集めたり小説を書いたりして世の中に発信してたけど、もう時間も惜しかったからさ、リュウが役者になったのもゼンの小説を広める為だったんだ。鈴鳴川で妖の物語が繰り広げられれば、春ちゃんがまたあの川に来てくれるんじゃないかって。俺がメディアに出だしたのも、神社を春ちゃんに意識させる為なんだよ」
「お前のは、ほぼ俺への対抗意識だろ」
「はあ!?なんで俺がリュウなんかに対抗心燃やさないといけないわけ!?」
「悔しがってたもんなー人気出ちゃったからなー」
「何言ってんの!?俺は」
「ま、待って下さい!」
再び始まる口喧嘩に春翔は慌てて間に入る。
なんだか今、凄い事を聞いた気がする。
「ゼンさんって小説書いてるんですか?もしかしてそれって、」
ゼンという名前、小説、妖、鈴鳴川。全て藤浪ゼンへと繋がっているように思うのは、気のせいではきっとない。春翔の背にひやりと汗が伝った。
「あぁ、ゼンがその藤浪ゼンだ」
まさか、焦がれて焦がれて仕方なかった藤浪ゼンが、あのゼンだったなんて。そうして思い起こされるのは、鈴鳴川から先程までの出来事で。なんて失礼な態度を取ってしまったんだろうという後悔と、彼に抱きしめられた温もりが一気に押し寄せてきて、春翔はたまらず頭を抱えて身もだえた。
そして、はっとする。
「先生…ゼンさんはずっと僕を探してくれてたんですか…?」
「うん、無事の確認や謝罪したい思いもあったと思うけど、ただもう一度会いたかったんだと思うよ。会っていいのか迷いは今もあるみたいだけどね」
「そう、ですか…」
ぎゅ、とゼンに抱きしめられたような気がして、春翔は頬を赤くし顔を俯けた。その様子を見て、ユキはどこかほっとした様子だ。
「やっぱり会わせて良かった」
「え?」
「勿論、あんな危険な状況だったのは大誤算だったけど、春ちゃん見つけてからずっと悩んでたんだよ。春ちゃんとゼンを会わせるべきか」
「どうしてですか?僕が危ないからですか?」
「あー違う違う!俺達が心配してたのは、春ちゃんの気持ちの方」
不安気に瞳を揺らす春翔に、ユキは慌てて反論し、それから困ったように笑った。
「春ちゃんが記憶を失ってるのは、妖の力のせいだけとは限らないでしょ?忘れたいくらい怖い記憶だったとしたら、ゼンに会うことで、また怖い記憶を思い出させてしまう事になるんじゃないかって。もし拒絶されたらどうしようって、ゼンはそれを恐れてたから、春ちゃんが思い出せるまで会おうとしなかったんだ。でも、もう時間がなかった」
「時間?」
「お前やゼンを襲った妖の力が回復しつつある。今回の事で、また少し猶予は出来ただろうが、奴が動くのは時間の問題だった」
「何も知らないでこっちの事情に巻き込む前に、説明しないとって。まぁ、結果的に何も知らないまま巻き込む形になっちゃったけど…」
ごめんね、と再び眉を垂れるユキに、春翔は謝らないで下さいと改めて首を振る。
「言い訳になるけど、本来なら、鈴鳴川の周辺は、人も妖も無意識の内に近寄らせない結界を張ってあったんだ。蛇女が現れたからな」
「春ちゃんもその対象となっていた筈なんだけど、妖の力の影響かな…」
「…そういえば、土手を下りようとした時、凄い音が頭に響いて、でも鈴の音が何度かしたら、楽になったんです。それが妖の力ですか…?」
すると、ユキとリュウジは顔を見合わせた。リュウジは思案顔で、ユキは「なるほど」と呟く。何かおかしな事を言っただろうかとおろおろする春翔に、ユキはぱっと表情を切り替えた。
「まぁ、そういうわけだからさ!色々怖い思いをさせたけど、この先何があっても俺達が春ちゃんを守るから安心してね!それで出来れば妖のこと…ゼンだけでも嫌わないでほしい」
「そんな、勿論ですよ!そりゃ驚きもしたし、今もまだ信じられない事でいっぱいですけど…嫌ったりなんてしません!」
身を乗り出し力いっぱい伝える春翔に、ユキはほっとした様子で微笑んだ。
「それ聞いて安心した」
「まぁ、春は俺といる時間の方が長いからな。今まで通り、何かあったらいつでも頼ってくれていいからな」
「ちょっと!長いって言ったって、お仕事が忙しいスター様は、寮を空ける日も多いんじゃない?それに比べて俺ならすぐに会いに行けるし?春ちゃん、体力バカより俺の術の方が遥かに役にたつよ!」
「お前な、」
「何だよ」
「ちょ、ちょっとなんでまた喧嘩してるんですか…!」
そうして再び巻き起こる賑やかな掛け合いに、春翔はやがて止めるのを諦め、ここに居ないゼンの事を思った。
ゼンの本は何度も読んだ。それが、自分を見つける為に書かれたものだったなんて。何度も繰り返し二人の思い出を読んでいたのに、気づけなかった。思い出せなかった。ゼンはどんな思いで鈴鳴川で待っていたのだろう。
ふと、ゼンと鈴鳴川で会った時の事を思い出す。傷ついた自分を見て、とても心配そうに、まるで自分の事のように怒り、悲しんでくれたゼン。何年も何年も、顔を合わせたってゼンの事を思い出せないのに、それを分かっても優しくしてくれた。
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