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しおりを挟む「え?」
レイジの言葉に、春翔はきょとんとする。
「ちょっと唐突すぎないか、それ」
「ズバッと言った方が分かりやすいだろ、嫌でも受け入れてもらう他ない。次いつ奴が現れるか分からないんだから」
隼人にそう言葉を返し、未だ理解しがたい表情を浮かべている春翔に向き直り、レイジは続けた。
「正確には、お前の影に潜んでる。影から生まれた妖だ、影の中に潜み取り憑く。取り憑いた者の影を支配した妖は、支配した者の意識を乗っ取り、やがて心も体も乗っ取っていく」
「思い当たる節あるんじゃないか」、そう尋ねられた春翔は、ないと首を振ろうとした動きがはたと止まる。
オレンジの炎に襲いかかられる前、自分の意識と体が引き離され、誰かに体を操られているような感覚になった。真っ暗闇の中、大きなスクリーンの前で手足も出せずにいるような、スクリーンに映るのは自分の目から見える景色、それなのに、何一つ自分のものではないような感覚。
春翔は確かめるように自分の両手の平を見つめた。その瞳は、甦ってきた全てを奪われた感覚への恐怖に怯え困惑している。本当に妖がいるのか、この体の中に。
「春翔、」
青ざめる春翔に、ゼンが心配して声を掛けると、春翔は縋るようにゼンへ視線を向けた。しかし、伸ばされたゼンの手は春翔に触れる事はなく、それどころか近寄る気配もない。ゼンは、開け放たれた居間と廊下を仕切る戸口から動こうとしない。元々距離の近い関係ではない、それでも鈴鳴川の川原や、夢の中のゼンに怯え飛び起きた時のように、その手で触れて宥めてほしいと思ってしまった。躊躇い下ろした指の先、ゼンとの距離に胸の奥が騒めく。
そうして思い出す。子供の頃に襲ってきた妖も、鈴鳴川の妖も、ゼンに敵意を持ってる妖だという事を。
「…ぼ、僕、帰ります」
「え?」
「帰すわけないだろ」
「仕事のこと?それなら大丈夫だよ」
レイジ、隼人と続く言葉に、春翔は首を振って立ち上がる。
「ここに居たら、ゼンさんに危険が及ぶんじゃないですか?」
だから側に来てくれないのだと、春翔はそう判断した。だってゼンは言っていた、「もう関わらない方がいい」と。いつ自分を攻撃してくるか分からない存在を側に置くのは危険な筈だ。こうしている間にも、ゼンに何かあったらと思うと、恐怖で背筋がゾッとする。自分は今、ゼンの優しさに甘え、ゼンを危険に晒しているのかもしれないと思うと、居てもたってもいられなかった。
「僕、絶対ゼンさんの前に現れないようにしますから、迷惑かけてごめんなさい」
頭を下げ出て行こうとする春翔を、ゼンは立ち塞がるように、その手を居間の戸口に付いて止めた。
「ゼンさん?」
「頼む、下がってくれ。俺は今、お前に触れないんだ」
「え?で、でも、僕がいたらゼンさんは、」
「俺よりも危険なのはお前だ」
「え?」
困惑する春翔に、隼人が後ろから春翔の両肩を軽く掴み、そのまま座らせた。
「まあまあ落ち着いて。今すぐどうこうなる訳じゃないし、春翔君がここに居てくれた方が僕達としても安心なんだよ」
「まずはちゃんと説明させてほしい」と、隼人は春翔の肩を優しく叩き、傍らに腰かけた。
「今日、ゼンが会いに行った時、妖に体を奪われたんだよね」
「は、はい」
「それを妨害したオレンジの炎、あれは真尋君の力だよ」
「…え?」
「そして、春翔君の意識を失わせたのも真尋君の力。その狙いは春翔君じゃなくて、春翔君の中の妖を一時的に閉じ込める為だった」
淡々と告げられた内容に、春翔は更に困惑を深め、「待って下さい!」と、隼人に詰め寄った。
「ま、真尋君も…妖だったんですか…?」
「そう。そして、君の中にいる妖の、恐らく仲間だ」
「…え?」
自分の中にいる妖は、ゼンに敵意を向けている。その妖が、真尋の仲間、その事実が受け入れられず、春翔は固まってしまった。
「…悪いな、真尋がうちの事務所に所属したいって言って来た時、俺があいつの目的を見抜けてたら、真尋を春翔の側におく事はなかったんだが、まさかお前らの敵だと思わなかったんだ、申し訳ない」
頭を下げたレイジに、春翔ははっとして「やめて下さい」と頭を上げさせたが、どうにも受け入れられない。まさか真尋が。そんな思いで一杯だった。
「…で、でも、どうして今頃?妖が僕に取り憑いたのって、子供の時ですよね?それがどうして今になって…それに、真尋君がもしその妖の仲間だとしたら、どうして僕を助けたんですか?」
ゼンを前にして、体の全てを妖に奪われたあの時、ゼンも虚をつかれていたとしたら、真尋の邪魔さえなければ、彼らの目的は果たされたのではないか。
「多分、お前の中の妖は、相当弱ってたんだよ」
「だよな」と、レイジがゼンに声を掛けると、ゼンは頷いた。
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