39 / 77
39
しおりを挟む「ゼン!ユキ!居ないのか!?隼人!」
大声を上げながらゼンの家へとやってきたのは、レイジだ。家の外からは、人々の困惑した声や足音が慌ただしく聞こえてくる。そんな中、レイジは焦った様子で居間に上がり、書斎の戸を開け、客間へと向かっていく。ゼンと春翔がいない、それを確認すると、再び声を上げながら家の中を駆け抜け、ユキや隼人が使っているであろう部屋の戸を開ければ、床に這いつくばるようにして倒れているユキと、布団の上で眠る隼人の姿があった。
「ユキ!」
珍しい事に、ユキの頭からは、三角の狐の耳と、ふさふさとした黄金色の尻尾が出ている。何があったのだと慌てて駆け寄るが、ユキは体が動かせない様子で、恐らく声も出せないのだろう、覗き込んだ瞳は必死に何かを訴えかけている。
「待て、今、楽にしてやる」
レイジはユキの体の上に手をかざした。ゆっくりとなぞるように動かしていくと、その手の辿った部分に黒い布のようなものが巻き付いているのが分かった。
「影か、人のもんじゃないな」
黒い布のようなものは、影だった。影はユキの体にぐるぐると巻き付き、それは手足、頭、口を覆い、床に縫い付けられていた。
レイジは両手をユキの体の上にかざす。
「しんどいんだよな、力使うと」
皮肉を言ってみせる顔は、焦りに歪んでいる。軽口を叩くのは、心を正常に保つ為だ。
体に巻きついた影を傷つけて良いなら解放は簡単だが、その影はユキ自身の影だ。影を傷つければ、ユキの体にも傷がつく。影を傷つけないように拘束を解くには、繊細な力加減が必要だった。
深く呼吸をして、目を閉じる。翳した両手を重ね合わせ、ユキの背中に押し当てると、その手のひらから一陣の風が巻き起こり、レイジの髪をなびかせた。
「ちょっと我慢な」
ユキは、ぎゅっと目を閉じた。レイジが更にその手に力を込めると、まばゆい光が溢れた。レイジの背中には立派な黒い翼が生え、その羽が辺りに散らばっていく。部屋中を包む光は、徐々にレイジの手の中に収まり、それはやがてユキの体を包み込むと、風船が割れるように弾け飛んだ。
「レイジ~!」
そうして拘束が解けたのか、ぐったりした体を起こしたユキは、心に突き動かされるままレイジに抱きついた。
「ありがとう!本当に助かった!」
ぎゅっと抱きつく姿からは、相当切羽詰まっていた事が伝わってくる。だが、これだけ動ければ、影による傷はなさそうだ。レイジも安堵して、ユキの背をぽんぽんと叩いた。
「俺も良かったよ、だが、残念ながらゆっくりしてられないぞ」
「あぁ、隼人の影も外さなきゃ」
「こいつもやられたのか、見えないのは不便だな」
見えないとは、隼人の体に絡む影の事だ。今の隼人は、ただ布団で寝ているとしか思えない。
「隼人はすぐ気を失ったから、体だけの拘束で済んでるけど、人間は俺らと違って耐性がないから。油断してたよ、相手は随分力を回復してるみたいだ」
ユキは言いながら、電気の紐を引き明かりをつけ、近くにあった鞄を開けた。
「自分が傷ついても良いと思ったけど、拘束を取ろうにもどんどん力が影に吸い取られてるみたいで」
「厄介だな。力は奪われ、拘束の影を傷つければ自分に跳ね返ってくる、人間には下手に手を出せないな…」
「そうなんだよ。あと、春ちゃんがゼンを連れてった」
「マジか」
「妙な気配がしてゼンの書斎に行ったら、春ちゃんがゼンの体を引きずってた。目は開いてたけど、多分あれは眠らされてる。妖が、中から春ちゃん操ってたんだよ、ゼンは意識を失ってた」
ユキは話しながら、鞄の中から小さな小瓶を取り出すと、それを隼人の体に振りかけた。キラキラと粒子が飛び、それを撫でるように体の上で手を翳すと、小さな輝きがパチパチと弾け、光に怯えるように、隼人を縛り続けていた影はしゅるしゅると消えていった。
その様子を、レイジはぽかんとして見ていた。
「おい、なんでそんな便利道具持ってるんだよ!あるなら出しとけよ!」
「口が利けなかったんだから仕方ないだろ、相手が影の妖だと目星はついたから、対カゲ用の道具は持ってきてたんだ。レイジのやり方じゃ、人間には辛いでしょ」
「悪かったな、これしか思いつかなかったんだよ」
「俺達には十分だよ。傷一つない、さすがだよ。それに、妖は影が欠けてもある程度は妖力で補えるけど、人間は欠けた影を取り戻す事は出来ないからさ」
だから、隼人には道具を使ったのだろう。ユキは、幾つか小瓶をレイジに渡した。
「これ、もしもの時に使って。外で、何が起きてるの?」
静かにしていなくても、外の騒ぎはまだ聞こえてくる。
「妖共が暴動を起こし始めた。神社や鈴鳴川は火の海だ」
「あいつら…」
「応援は呼んである、神社は真斗が留守だと知って狙ってきたんだな。神社に人は居ないからまだ良かったが、これから町に火が回るかもしれない。消防もすぐに駆けつけるだろうが、妖が絡んでる以上、厄介に変わりない」
「そうだな、俺もすぐに行く」
「あぁ、」
レイジは頷くと、隼人に目を向けた。眠っているのだろうが、その顔は少し青ざめて見える。
「…レイジは残りなよ、隼人を一人に出来ないし、影に縛られて時間も経ってる、あれは人には酷だよ」
レイジと隼人は友人であり、長年連れ添ってきた相棒だ。レイジの気持ちを思いユキはそう声を掛けたが、レイジは「だがなぁ」と苦笑った。
「俺に人を診る力はないんだ」
言いながら、隼人の体をそっと抱き上げると、バサッと翼を広げた。
「俺が側に居ても何も出来ないなら、出来る事をしなくちゃな。こいつを真斗に預けたら、すぐに向かう」
「…分かったよ」
レイジは丁寧に隼人を抱え直すと、部屋の窓から身を屈め、大きく翼を広げ夜空に飛び立った。
「さて、急がないとな」
ユキは軽く頭を振って耳と尻尾を消すと、先程の鞄を手に、急いでゼンの家を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
Please,Call My Name
叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。
何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。
しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。
大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。
眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。
【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~
Tubling@書籍化&コミカライズ決定
BL
主人公の高嶺 亮(たかみね りょう)は、中学生時代の痛い経験からサラサラな前髪を目深に切り揃え、分厚いびんぞこ眼鏡をかけ、できるだけ素顔をさらさないように細心の注意を払いながら高校生活デビューを果たした。
幼馴染の久楽 結人(くらく ゆいと)が同じ高校に入学しているのを知り、小学校卒業以来の再会を楽しみにするも、再会した幼馴染は金髪ヤンキーになっていて…不良仲間とつるみ、自分を知らない人間だと突き放す。
『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』
僕があの時の約束を破ったから?
でも確かに突き放されたはずなのに…
なぜか結人は事あるごとに自分を助けてくれる。どういうこと?
そんな結人が亮と再会して、とある悩みを抱えていた。それは――
「再会した幼馴染(亮)が可愛すぎる件」
本当は優しくしたいのにとある理由から素直になれず、亮に対して拗れに拗れた想いを抱く結人。
幼馴染の素顔を守りたい。独占したい。でも今更素直になれない――
無自覚な亮に次々と魅了されていく周りの男子を振り切り、亮からの「好き」をゲット出来るのか?
「俺を好きになれ」
拗れた結人の想いの行方は……体格も性格も正反対の2人の恋は一筋縄ではいかない模様です!!
不器用な2人が周りを巻き込みながら、少しずつ距離を縮めていく、苦くて甘い高校生BLです。
アルファポリスさんでは初のBL作品となりますので、完結までがんばります。
第13回BL大賞にエントリーしている作品です。応援していただけると泣いて喜びます!!
※完結したので感想欄開いてます~~^^
●高校生時代はピュアloveです。キスはあります。
●物語は全て一人称で進んでいきます。
●基本的に攻めの愛が重いです。
●最初はサクサク更新します。両想いになるまではだいたい10万字程度になります。
Nova | 大人気アイドル×男前マネージャー
むぎしま
BL
大人気アイドル・櫻井来夢が恋をしたのは、
ライバル事務所のマネージャー・本郷ルカだった。
強く、知的で、頼れる大人の男。
その背中に憧れ、来夢は彼を追いかける。
──仕事のできる色男・本郷ルカは、女にモテた。
「かっこいい」「頼りたい」「守ってほしい」
そんな言葉には、もう慣れていた。
けれど本当の心は、
守られたい。愛されたい。
そして、可愛いと思われたい。
その本心に気づいてしまった来夢は、
本郷を口説き、甘やかし、溺愛する。
これは、
愛されることを知った男と、
そのすべてを抱きしめたアイドルの、
とても幸せな恋の話。
独占欲強めな年下アイドル
(櫻井 来夢)
×
愛に飢えた有能マネージャー
(本郷 ルカ)
ーー
完結しました!
来週以降、後日談・番外編を更新予定です。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる