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しおりを挟む「少年、なんでヒーローになりたいんだ?」
「僕、もうすぐお兄ちゃんになるんだ、弟が出来るんだよ!だから強くなるんだ、怖い事から僕が守ってあげるの。でも、僕には出来ないみたい…かけっこもサッカーも全然出来なくて、お前は弱っちいって、あっくんにいつも言われて…」
ぐすっと鼻をすすり、目をごしごしと拭う少年に、スズナリはポンと頭に手を乗せた。
「いくらかけっこが得意でも、守りたい気持ちがなきゃ強くなんてなれないさ、お前は大丈夫、強くなれるよ。誰かを守りたい優しい心は、ヒーローの大事な素質だ」
「ほんと!?じゃあ、お兄さんみたいに、僕にも悪者をやっつけられる!?」
「少年の側に悪者はいんのか?」
「んー…ううん、いないよ」
「お兄さんの周りにも、悪者は居ないって思うんだよ」
「さっきの怖い人は?」
「ああいうのはなー、誰かを傷つけようとするのは、嫌でも悪者に見えちまうな」
「じゃあ、悪い人?」
「本当は、もしかしたら違うかもしれない。あいつにも何か考えがあって、目的や立場や意見の違いで、力技で俺達をやっつけちまおうって考えたのかもしれない」
「それって、可哀想?」
「かもな。でも、力で抑えつけるのはよくない。やられたらやり返さなくちゃ、俺達は自分を守れない。だから戦いになる。
昔な、それも昔も昔、大昔。人と妖の間で争いが起こったんだ。何かされるかもしれない、仲間を傷つける前にやっちまおうって、話せば分かり合えたのかもしれないのに戦ってた。俺は人も妖も大好きだからさ、どうにか争いを止めようと必死に呼び掛けて、人と妖の間にルールを作った。今は、妖を知る者はごく僅かだ。それでも人と妖の交流を絶つ事はしないで、お互いが住み良い暮らしが出来るように、理解し合って生きている」
スズナリは自身の手のひらに目を落とした。そこには、大きな傷跡があり、その傷の深さを知っているゼンは目を伏せた。その大きな傷跡は、体中にある。たった一人でスズナリは人と妖の争いに割って入り、命を落とす覚悟で二つの世界を守った。
「傷つけるのは簡単だけど、傷つけずに守るのって大変なんだ、守る為なら誰かを傷つけていいわけじゃない、拳は大事な局面の切り札だ」
「例えば?」
「んー、可愛い彼女を守る時とか?好きな子くらいいるんだろ?」
「えー!いないよ!」
途端にキャアと頬を赤らめる少年に、スズナリは楽しそうに笑った。
「まぁ、なんだ。妖といっても少年の憧れのような存在じゃないかもしれない。それでも、俺はこの平和な世界を守る為に、人と妖がもっと仲良くなってほしいと思うんだ、友達になってくれるか?」
「うん!なる!」
「俺達が妖だってこと、秘密に出来るか?」
「うん、出来るよ!お兄さんは僕を守ってくれたから、僕も約束出来る!」
「よし!じゃあ、男と男の約束だ」
「うん!」
そしてスズナリと少年は小指を絡めた。
「では、新たなる人と妖の平和協定の一環として、少年にはやってもらいたい事がある!」
「はい!」
すっかりスズナリに懐いた少年に、一体何をやらす気かと、ゼンは怪訝な顔つきだ。人と妖の仲を深めるのは良いことだ、しかし、こんな子供を巻き込んでいいものかと、ゼンはまだ納得出来てない様子だ。
「少年には、この狐のお兄さんと仲良くなってほしい!」
「はい!」
「は?」
すると、少年はキラキラした眼差しでゼンの元へやってくる。
「よろしくお願いします!狐のお兄さん!」
「いや、俺は認めてないぞ、何勝手なこと言ってるんだスズナリ」
「人との交流も王子としては大事な仕事だろ」
「それとこれとは別だろ!そもそも正体を明かしての交流なんて、」
「お兄さん、僕の事嫌い…?」
ハッとして顔を向ければら今にも泣きそうな少年の顔が飛び込んできて、ゼンは慌てて首を振った。
「そうではない!ただ…」
「僕、お兄さんみたいになりたい、強くてかっこいいんだ、僕のヒーローなんだ!」
真っ直ぐに投げかけられた言葉は、真っ直ぐにゼンの心へと入り込む。
邪気の無い、妖と知って恐ろしい力を持つと知って尚、真っ直ぐに慕ってくれる少年に、ゼンにはもう、その言葉を跳ね返すような事は出来なかった。
「…お前、名前は?」
「春翔、西宮春翔です!」
「俺はゼン」
そう言って差し出された手を、少年は嬉しそうに笑って両手で掴むと、遊んで貰えると思ったのか、ゼンの手を掴んだまま走り出した。
妖の世でゼンを慕う者はいる、けれど、その心をゼンは信じきれずにいた。上辺だけではないか、王子の立場がそうさせるのではないか、両親やユキやリュウジ、スズナリに対してもたまに疑心暗鬼に陥ってしまう。そんなゼンを、頑なな心の扉を、少年は容易くくぐり抜けてしまった。少年の、春翔の真っ直ぐな言葉は疑う事を忘れさせ、誰かと共に過ごす日々の穏やかさを安らぎを、ゼンに思い出させていく。
春翔との出会いは、ゼンにとって特別なものだった。
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