鈴鳴川で恋をして

茶野森かのこ

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「…大丈夫?」

恐る恐る尋ねる少年に、今は個人的な感情に打ちのめされている場合ではないと、ゼンは少し背を屈め少年と目を合わせた。

「お前ケガはないか?」
「うん、びっくりしたけど…ね!ね!凄いね!火の玉みたいなの!ちょっと怖かったけど、僕、魔法って初めて見た!」
「…魔法?」
「皆に言っていい?皆びっくりするよ!」

瞳をキラキラ輝かせ、ぽかんとするゼンを置き去りに、少年は離れた場所で駆け回る少年達に手を振った。

「おーい!皆ー!」

しかし、少年の声は届かないのか、友人達はあちらこちらと駆け回り、時に植木に頭を突っ込んでは何かを探しているようだ。そういえばと、ゼンは傍らに転がっていたサッカーボールを手にした。きっと、ボールと共に突然消えてしまった友人を心配して探し回っているのだろう、早く帰してあげなければ、大事になってしまうかもしれない。

だが、そのまま帰すわけにはいかない。

「あれ?なんでみんな気づかないのかな…?」

不思議に首を傾げつつ、そのまま結界を飛び出してしまいそうな少年を、ゼンは慌てて呼び止めた。

「待て、話さなくてはならない事がある」
「話?」
「あぁ、今見た事は全て他言無用に頼む。そうでなければお前の記憶を消さなくてはならない」
「…たご…何それ?」
「だからな、」
「秘密にしてほしいって事だよ」

突然の第三者の声に、ゼンは驚いて振り返った。そこには、いつの間にかスズナリが居た。彼は上級の妖なので、力を抑えられたゼンの結界はたやすく通り抜けられる。先程の狼が結界を出られたのは、恐らく天狗の力によるものだろう。
ぽん、とゼンの肩を叩き、スズナリは視線を合わせるように少年の前に座り込んだ。

「お兄さん誰?」
「俺は鈴鳴すずなり神社で働いてて、こいつの友達」
「おい、」
「そして俺達には秘密がある」

ゼンを無視して話を進めるスズナリが、ポンと手を叩くと、ゼンの頭からは狐の耳、お尻からはふわふわの尻尾が現れた。

「わっ!」
「…は?」

目を丸くしたのは少年だけではない。思いもよらないスズナリの行動に、ゼンは理解が追い付かず固まってしまった。
こんな姿を人間に見られたらどうなるか、恐怖を感じるゼンだが、目の前の少年はといえば、驚いたのも束の間、気づけば目をキラキラさせて、ゼンの体から突如突如現れた耳と尻尾を見上げている。

「凄ーい!どうなってるの!?お兄さんも魔法使えるの!?」
「まぁ、似たようなもんだな」
「一言で片付けるな!何するんだ、スズナリ!」
「どうせただの人間じゃないことはバレてるんだ、それならスッキリ全て話した方が互いに気が楽だろ」
「は?」

更に困惑するゼンには構わず、スズナリは、ふよふよ動くゼンの尻尾に好奇心に満ちた眼差しを向ける少年に声を掛けた。

「少年、秘密は守れるか?」
「秘密?」
「俺達実はな、人間じゃないんだ」
「え?」

ゼンの背筋が凍った。先程まで妖狼とのやり取りを見ていたのだ、妖狐の耳と尻尾を出して人間じゃないと言っても今更かもしれないが、子供といえど、人間に自らの正体を晒すというのは、肝が冷える。

ゼンは、人と妖の間に生まれた半妖として、妖達から嫌という程差別の眼差しを受けてきた。王族という立場のお陰で守って貰えたが、その中でも理解して貰えない者からの嫌がらせはあり、極めつけが、カゲと対峙したあの日だ。恐がられ、ゼンへの反感の感情はますます強くなり、今では命まで狙われている。
いくらそういった感情を向けられるのは慣れていると自分に言い聞かせても、本音は怖い。
妖だけでなく、人からも忌み嫌われるようになれば、本当にもう、自分の生きる場所は無いように思えた。

「人じゃないの?宇宙人?」
「はは、宇宙人じゃないさ。妖っていうんだ、妖怪」
「妖怪?お兄さん達が?」
「そう、」
「怖いだろ、お前達人間を襲うかもしれない」
「ゼンお前な、」

何を言い出すんだと、スズナリはゼンを振り返ったが、俯いた表情や震えて握りしめられた拳を見て、思わず言葉を止めた。
その言葉は、拒絶される事を恐れるゼンが出した防衛本能だ。少しでもその傷が大きくならないようにと。今の子供の姿のお陰で、その思いは余計顕著に感じられた。
しかし、少年はきょとんとして首を傾げた。

「怖くないよ、だって守ってくれたもん!お兄さん達ヒーローなんでしょ!?ババッて火を出して、悪者をやっつけるんだ!僕、毎週見てるよ!」
「は…?」
「お!少年もあのアニメ観てるのか!」
「うん!カッコいいんだ!僕もなれるかな?」
「人は妖にはなれない」
「え…」

ガンっと殴られたかのように、嬉々とした表情を崩す少年。すかさずスズナリはゼンの頭を小突いたが、ゼンには全く理由が分かってなさそうだ。

「お前、子供の夢を壊すなよ!せっかく仲良くなれるチャンスなのに」
「俺は事実を言ったまでだ。それに仲良くなってどうする、その前にちゃんと釘を刺しておかないと、何を言いふらされるか分からないだろ」

ゼンの言葉にスズナリは困ったように息を吐き、ちょっと黙ってろとゼンを下がらせ、俯く少年に声を掛けた。

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