鈴鳴川で恋をして

茶野森かのこ

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「ゼン様の薬、成功してますよ」

その一言に、ゼンは言葉を失った。信じられないと呆然とした様子のゼンに、リュウジは笑ってその肩を叩いた。

「牢屋の中でカゲは泣いてたよ、仲間達が生きてると納得出来た上に、そいつらがちゃんと目を覚ましたんだからな」
「…そうか、」

そうか、良かった。
呆然としていた言葉は、繰り返される内にほっと安堵の色へ変わっていく。言葉は短いが、ゼンの思いが、心の底から安堵している様子が伝わってくる。

「カゲの奴らが何したか、ゼンだって分かってんのにな」

ゼンの様子を見守っていた春翔はるとに、リュウジはそっと声を掛けた。仕方なさそうに告げられた言葉だが、呆れではなく見守るような温もりがある。
それが誰であれ、背後にどんな理由があれ、ゼンにとって自分のしてしまった事は変わらない。だから、カゲ達を救わなきゃならなかったし、リュウジ達はそんなゼンをずっと側で見守っていた。何があっても味方でいてくれる存在は、ゼンにとっても心強かっただろう。

いつだったか、ユキが人の世を少し留守にしていた事があったが、それもその薬の為だったという。ゼンが行けない代わりに、開発した薬の安全等、最終確認をしに行っていたようだ。

シンラはゼンの姿を感極まった様子で見つめていたが、やがて誇らしげに頷いた。

「やはりゼン様は妖狐の王になられるべきお方だ…」

そうして促すようにゼンの腕を掴む。

「さぁ、妖の世に帰りましょう!妖達は本当のゼン様を知らないのです!国民がゼン様のお気持ちやその志を知れば、」
「シンラ」

はやるシンラをそっと引き止め、ゼンは腕を掴むシンラの手に手を乗せた。

「俺は王にはならない、その器じゃない」
「そんな事ありません!」
「お前の気持ちだけで十分だ。俺は守番だ、スズナリの川で二つの世を見守る役目を担っている。俺を恐れるからこそ、羽目を外そうとする妖を抑止出来ている部分もあるんだ。俺はこのままでいい、自ら望んだ仕事だ、放棄する訳にはいかない。俺はここで償いを果たすつもりだ」
「……」

まっすぐに伝えられては、シンラもそれ以上言葉が出ない。しゅんと肩を落とすシンラに、その肩をぽんと叩いて、ゼンはゆっくりとシンラの手から腕を放させた。

「…でも私は、例え自分が王になろうとも、ゼン様が国王になる事を望んでいますから。諦めませんから!そして、あなたも!」

キッと強い眼差しが自分に向けられ、春翔はびくりと肩を揺らした。

「まだ私は、あなたの事を認めた訳ではありませんので!ただ、あなたのお気持ちは分かりました、今日の所は引き上げます」

ムッとしながらもシンラがそう告げると、リュウジがほっとした様子で間に入り、シンラの両肩を掴み体を反転させた。

「さぁ!そうと決まればさっさと城に帰るぞ!授業抜け出して来たんだからさ」
「な!ゼン様の前でそんな事…!」
「事実だろ」
「だから門を開いたのか」

困り顔でゼンに呟かれ、シンラははっとしてゼンを振り返った。

「あ、あれは急用で仕方なく…!」
「これが急用かね…そもそも私用じゃ普通は使わないけどな」
「リュウジ!先程から余計な事を!それに、ゼン様に薬の事を伝えなきゃいけないじゃないか!」
「そんなの俺が一人帰って伝えれば良い事だろ。そもそも門を開くのは、」
「仕方ないでしょう!授業抜け出して来たんだから!…あ、」

シンラは自分の発言にはっとして、慌ててゼンを振り返り、違うんですと弁明を果たそうとしている。だが、リュウジに力では敵わない。

「はいはい、帰りますよ」
「違うんです!ゼン様!」

嘆くシンラには構わず、リュウジはずるずるとシンラを引きずっていく。

「じゃあな、ゼン、春!夜には戻るから、お前らも気をつけて帰れよ」
「あぁ」
「行ってらっしゃい、リュウさん!」

「私は、まだ」「いいから帰るぞ」と賑やかに言い合いながら、今度は門を使わずに、二人は桜の木の元、光と共に川の向こうの世界へ消えてしまった。
桜の花びらがひらひらと舞う、静かな鈴鳴川が戻ってきた。


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