王女ではなくなりますが‥‥

ゆきちゃん

文字の大きさ
30 / 32
5 運命に抗う

30 運命に抗う

しおりを挟む
 魔女が続けて言った。

「今、王都の住民達は魔王ゲールの人質にされようとしている。人質を楯にとって、あの騎士を牽制しながら戦いを有利に進めようとしているんだよ。おまえさんは人質を解放して、愛する騎士が思う存分戦えるようにしてあげなければいけないよ。」

 グネビアが聞いた。

「私はどうすればいいですか。」

「王都は結界に守られた地。ほんとうは魔物が侵入できないのに、なぜだが入り込み住民達は魔術にかけられ人質にされてしまう。今からおまえさんは王都に行き、魔物を退治し住民達を救うんだよ。」

「今からですか。母様の馬に乗ったとしても、ランスロ様と魔王ゲールとの戦いの前に着くのは不可能です。」

「大丈夫、私の扉を使いな。」

 魔女がそう言うと、かって魔女のすみかで開けたことのある扉が目の前に現われた。グネビアが扉を開けようとすると、魔女が言った。

「ちょっと待ちな。これを持ってきな。」

 グネビアに精霊剣ロッテが渡された。同時に精霊が姿を見せた。

「グネビア様、また一緒に戦えますね。」

「ロッテ。宮殿の武器庫に厳重に保管されている精霊剣がなんでここに。」

 魔女が言った。

「野暮なこと聞くんじゃ無いよ。精霊を剣に返そうとして武器庫に行ったら、警備があんまり手薄だったから、いただいてきたんだよ。精霊のこの娘もその方がいいと言うのでな。」

「この先何十年も武器庫に閉じ込められ、とても長い退屈な時間を過ごすのはうんざりです。それよりも、私はグネビア様の剣になって、これからの冒険のお手伝いをしたいのです。大好きなグネビア様のために。」

「ロッテが一緒にいてくれると、私はとても心強いわ。アラクネ様、ありがとうごさいます。今から王都イスタンに向かいます。」

 魔女が言った。

「その扉を開くと、おまえさんが良く知っている所に行くことができる。だけどそこでは、魔族の悪いことが行われようとしているからね。絶対にやらせてはだめだよ。」

「わかりました。」

 決意を秘めた顔をしてグネビアは扉を開けた。



 宮殿にある王女マギーの部屋で黒い蝶が飛び回りながら、幻惑の魔物として最後の仕事をしようとしていた。

 蝶が王女マギーに言った。

「王女様、あなたは臣民のことが好きですか。」

 王女が答えた。

「冗談を言わないで、大嫌いよ。ほとんど全ての臣民が私が大嫌いなランスロのことを、高潔な心をもつ世界最強の騎士として尊敬している。それにも増して頭にくることは、老若男女を問わず、あの平民の娘グネビアのことが大好きなことだわ。」

 蝶が王女にささやいた。

「それでは全臣民を、最初はこの王都イスタンの住民から、王女様の命令に従うように魔術をかけてしまえばいいじゃないですか。」

「私は魔女ではないから、そんなことはできないわ。」

「一つだけ良い方法があります。魔術が得意な魔物を、王女様が暗黒空間から呼び寄せるのです。」

「魔物を呼び寄せるなんてできるわけないじゃない。」

「いやいや王女様、大丈夫ですよ。私が方法をお教えします。呼び寄せられた魔物は、呼び寄せてくれた王女様の命令に逆らうことができません。魔術で住民を自由に操ることができるのですよ。王女様のことを大好きにさせることもできます。」

「そう。意外におもしろいかも。」

「その前に王女様。この王都イスタンにかけられている結界を解いてください。古より結界のおかげで魔物は王都に入ることはできません。王族である王女様がお命じになられれば、結界は解かれます。」

「どうすればいいの。」

「王族の証しであるティアラをつけてお命じください。どのような言葉でも結界は解かれます。」

 蝶は思った。

(ほんとうはグネビアのものであるティアラをつければ、グネビアの言葉であると認識されるからな。)

 王女マギーは衣装棚からティアラを手にとった。そして、ほんとうはグネビアのものであるティアラをつけて言った。

「王女マギーが命ずる。王都イスタンの結界よ、囲みを解け。」



 結界は解かれた。そのことを確認して蝶が言った。

「魔物の名前はセイレンといいます。お呼びください。」

 王女は言った。

「セイレンよ来い。我が前にひざまづけ。」

 その声に導かれるように魔物が現われた。上半身は美しい女性だが、下半身は鳥の姿をしていた。魔物はすぐに、不思議な歌を歌い始めた。

 王女は意識と体を支配された。そしてふらふらと歩き始め、宮殿の外に向かった。

 魔物の歌は王都イスタン中の全てに鳴り響き、王女だけではなく全ての住民を支配した。住民達はつぎつぎに家の外に出てふらふらと歩き、城門から続く王都のメインストリートに横たわり始めた。



 その時、魔物の蝶とセイレンしかいなくなった宮殿の王女の部屋の空間に扉が出現し、そこからグネビアが出て来た。

(ここは王女だった頃の私の部屋だ。)

 精霊が言った。

「あの魔物が歌を歌い、王都の住民を支配しています。魔物を殺して、止めなくては。」

 グネビアが言った。

「ロッテ、私はこの歌を聞いて大丈夫かしら。」

「グネビア様、大丈夫ですよ。あなたのしもべである私が、霊力でお守りしていますから。」

「よし。征くわ。」

 そう言うと、グネビアは精霊剣を抜き、人とはおもえないほどの俊足でセイレンに近づくと精霊剣を振った。一瞬でセイレンは消滅した。

 精霊が気づいた。

「あそこを飛んでいる蝶も魔物です。退治しなければ。」

 精霊の言葉を聞いた瞬間、グネビアの剣戟は蝶に向かって光りのように走り魔蝶は消滅した。

 その時、どこからともなく大魔法使いクレストの声がした。

「グネビア王女様。最後の仕上げが残っています。王女であるあなたが、王都イスタンの結界を結び直すようにお命じください。」

 グネビアはお礼を言った。

「大魔法使いクレスト様。ほんとうにありがとうございます。」

 そして結界に向かって強く念じた。

「王女だったグネビアが命ずる。王都イスタンの結界よ、再び囲みを張り巡らし住民達を魔物から守れ。」

 結界は再び機能し始めた。グネビアが精霊に聞いた。

「ロッテ、メインストリートに横たわっている住民達の意識が戻るわ。なにか教えてあげなくては。」

「グネビア様。宮殿のテラスに出られて住民達にお話ください。グネビア様の声が全ての人に届くように、私が霊気を込めます。」

「わかったわ。お願いします。」



 それからグネビアは宮殿のテラスに出て、住民達に話し始めた。

「みなさん、グネビアです。今の事態に慌てることなく、それぞれのお家にお戻りください。それから、もう少しすると王都イスタンの近くで、騎士ランスロが魔王ゲールと戦います。結界が張られており、魔物は王都の中には入れませんので絶対に大丈夫です。」



 その後、グネビアは声を大きくして、住民達にお願いした。

「騎士ランスロは世界最強の騎士です。しかし相手は魔王ゲールです。戦いの結果がどうなるかは全くわかりません。ただ、みなさんに心の底からお願いします。」

 少し間があいて、グネビアの言葉が続いた。

「自分のことより、みなさんの幸せを守ることだけをいつも考えている高潔な騎士ランスロが勝てるよう祈ってください。どうぞ、どうぞ‥‥ お願い致します。勝って、彼がその後も生き続けられるように。」

 最後の言葉は涙混じりになっていた。






 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

処理中です...