目覚めた男

ナマケモノ

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目覚めた男

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 ほんの少しではあるけど、思い出す。
 2010年にみんな別々に食事をとっていた。
 そして、全てが混ぜられたものなんかない。
 なぜ今はこんなにひとつの味を楽しむことをしないのだ。
 やはり、ひとつの味を楽しむべきのはず。
 自分の目の前にある食事は緑色をしている。
 ほうれん草の色が表面にでているのだろう。
 ローストビーフ、トマトとほうれん草を合わせその他2種類の野菜を含んだもの、白米、みそ汁を混ぜ合わせたものだ。
「今の時代はひとつの味を楽しむことはしないのです」 僕はたずねた。
「そうする人はいます。残念ながら、今食べているものが大多数なのですよ 」
「ふーん、お話を変えましょう。 銅像のことについて」
「銅像ですね、あなたは祖父が言わなければああなることはなかった。 それだけです」
「長谷川博士の銅像はないのですか?」




「あります。 あなたが見ていないだけでしょう」
 うん? 僕の銅像はあったけど、あの場になかった。
 普通なら長谷川博士の意思を受け継いだ病院であれば、近くにあるのではないだろうか。
 単に自分が見落としをしていただけかもしれない。
 青年はテレビをつけた。
「あなたが目覚めたことにニュースになっています」
 リポーターが街行く人々にインタビューをしている。
 間近で通る姿をみたというのから取りあげている。
 インタビューを受けている人の口ぶりだと、まさか僕を本人とは思っていなかったらしい。
 そっくりさんだと勘違いをしていた。
 インタビューを受けた中には広場で会った親子は映っていない。
 僕はリポーターは惜しいことをしたものだ、と思う。
 ニュースの最後に中村守の姿をみた方は募集とテロップがあった。
 失礼じゃないか、僕はUMAやUFOといった類いのくくりにされていないかと憤りを感じる。




 自分はひとりの人間だ。
 変な世の中である。
「いやー、みなさん興奮なされていますね。 私はこうして会っているわけですか」 青年は感動した面持ちで言う。
「そうですね。 僕を何かと勘違いしているようだ」
 青年はまばたきをして、何に勘違いなされているのでしょうとたずねた。
「UFOやUMAのようにですよ」
「あなたは面白い方ですね。 みなさんあなたに会いたいのですよ。 考えてみてください。 近くに有名人が来たとしますね、会いたいに決まっています。 それと同じ感覚なのです」
 有名人の例えはうなずけるものではないけど、彼の言わんとすることは分かる。
 自分は有名人というより1市民に過ぎないような気がする。
 僕が有名人というのは世間の感覚としておかしい。
 本当に世の中はどうなってしまったのだろう。
 僕は朝食をたいらげ青年にお礼を言って、去っていく。




 長谷川施設へ向かう。
 人々とすれ違うが、注目されることはない。
 みんな、自分のことで頭がいっぱいなのだろう。
 さっきみたニュースは何だったのだろうと首をかしげたくなる。
 長谷川施設にどんな人がいるのだろうかとあれこれ想像していた。
 歩くことに億劫になった僕はタクシーをひろう。
 ロボットは僕の顔をみても反応することはない。
 平然と接客を行う。
 このロボットの特徴は訊かれてもいないことを話していた。
 おかげで観光客気分で街を案内する。
 声に抑揚はなく、話の腰をおることはあった。
 タクシーから降りると車の屋根に、“観光用タクシー”とランプで表示されていることに気づく。
 長谷川施設に着く。
 茶色建物だ。人が通る姿がみられない。
 自動ドアをくぐり、受付にたずねた。
 検索している間、座って待つ。
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