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心はヌーディスト③

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「まぁ、今までが順調すぎたぐらいだからね。しばらくは慌ただしくなると思うけど、一つひとつ片付けていくわよ」

 ココナさんは朗らかに笑う。何か手助けはできないかな、と思って、
「キャストたちへの連絡ですけど、僕が変わりましょうか?」

「ううん、それは私の仕事だから大丈夫。それより、君の常連さんへの連絡をお願いできるかな。私がするより、先方に喜んでもらえそうだし。“しばらくあなたに会えないのは残念ですが、クラブ再開の折にはよろしくお願いします”という感じで」

「了解です。そちらは任せて下さい」

 少し打ち合わせをして、僕たちは電話を切った。
 元々仕事メインの日常生活を送っているが、翌日の仕事内容はガラリと変わった。

 とりあえず、常連さん向けの文面を作成して、一人ひとり丁寧にメール送信。まもなく会うことになっていた方には、一人残らず電話をした。留守番電話の方にはメッセージを吹き込んでおいた。

 もちろん、コールボーイのシュウとは名乗らず、「聖夜化粧品」の山本という仮名を使った。(ちなみに、『キャッスル』時代は城川化粧品の山本だった)すぐ連絡のつかない方もおられたが、昼過ぎには作業は完了。とたんに時間をもてあましてしまった。

 どうやら、僕はワーカホリック(仕事中毒)だったらしい。

 本屋でも覗いてこようか、そう思って外出のしていた時、真由莉さんからメールを受信した。彼女は常連さんというより、友達以上恋人未満という微妙な関係だけど。彼女のメールはいつも短い。

「シュウ、久し振り。忙しそうだね。ついさっき、キャンセルがあったの。もし時間があるなら、こっちに来ない?」

 つまり、吉原のお店に顔を出せ、ということだ。真由莉さんはプライドが高くて、基本的にお姫様タイプだ。僕にも少なからず負い目があるので、これは命令に近い。

「了解です。すぐ、飛んでいきます」素早く返信して、お店に予約の電話を入れる。

 電車だと一時間ほどかかってしまうので、通りに出てタクシーを拾った。吉原に行くのは久し振りだ。お互い、何度も身体を重ねているのに、おカネを支払うのは妙な話かもしれない。

 ただ、客として真由莉さんを抱かせてもらう、というシチュエーションは楽しめるはずだ。いつもとは違う刺激がある。ソープ嬢としての彼女のテクニックには興味があった。

 そういえば、ソープ嬢時代のココナさんにも、呼びつけられたことがあった。『キャッスル』を辞める際だから、一年半以上前の話になる。あの時、お店で客としてココナさんを抱いて、その直後にスカウトされたのだ。(『裸のプリンス』「溺れる身体」参照)


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