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心はヌーディスト④

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 僕と真由莉さんとの出会いも、ココナさんの紹介によるものだ。真由莉さんは当時、看護師からソープ嬢に転身したばかりで、少なからず鬱屈していた。

「最近の若い男は受け身ばっかりよ。女性をねじ伏せるパワフルな男は、絶滅危惧種になりはてたね」

 そんな風に、若い男性の草食化を嘆いていたらしい。僕は彼女のマンションを訪れて、ココナさんの指示通り、パワフルなセックスを堪能してもらった。それ以来の付き合いであり、冷却期間もあったけど、僕たちの相性は最高である。

 もちろん、セックスの相性のことだ。責めて責められ、僕たちのセックスは常に充実している。

 コールボーイとソープ嬢、お互いプロなのだから、充実しているのは当たり前だろう、と考えてもらっては困る。男性の機能はデリケートにできていて、ふとした拍子で異常をきたすことがある。

 感情のボタンのかけちがいのようなものだ。セックスはメンタルで大きく左右される。相手に不信感や憎悪,嫌悪を抱いた場合、通常なセックスは難しくなる。

 もちろん、暴力衝動やレイプ願望など、異なる趣味嗜好をもつ人がいるけれど、僕には理解が難しい。一方的なセックスはむなしい。心と身体が結びついて初めてセックスが成立すると思うし、僕は日々その実感を重ねてきた。

 そんなことをつらつら考えていると、あっという間にタクシーは吉原に到着した。百数十軒ものソープランドが密集している一角だ。吉原公園の前で降ろしてもらい、細い路地に入って真由莉さんのお店へと向かう。

 昼下がりの吉原は閑散としていた。真っ昼間から女遊びをする輩が少ないせいか、梅雨とは名ばかりの猛暑日が続いているせいか。もしかしたら、ボーナス時期と給料日の狭間にあたるせいかもしれない。

 うるさい呼び込みを無視して歩いていくと、『ピンク・マーメイド』の看板が目に入った。真由莉さんの勤務地であり、ココナさんの元勤務地である。

「予約した山本です」と受付に伝えて、所定の代金を支払った。

 男性店員の案内で待合室に通されたのだが、彼の態度が気になった。明らかに機嫌が悪そうだ。不平不満が表情に出やすい性格らしい。店員の良し悪しは、風俗店の印象に強く影響する。

 前に来た時はこうではなかった。『ピンク・マーメイド』は最近うまくいっていないのかもしれない。ほどなく店員に呼ばれて、階段の方に向かう。

 真由莉さんは笑顔を浮かべて、踊り場に立っていた。驚いたことに、セーラー服姿である。

「いらっしゃいませ、山本さん」

 僕たちは軽くハグをして、挨拶としてのキスを交わす

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