公的失踪オルタナライフ

坂本 光陽

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エピローグ

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 日本版〈証人保護プログラム〉の正式名称は〈アナザ・プロファイル・システム〉であるが、関係各所では〈ハーミット・クラブ〉という通称の方が多用されている。ハーミットとは隠者という意味なので、ワタルは勝手に「隠者のクラブ」だと理解していた。

「あ、それはちがうよ」と、美羽が言った。「よく誤解されるのだけど、本当の意味は全然ちがうから」
「えっ、そうなんですか」

「〈ハーミット・クラブ(hermit crab)〉というのは、そのままで〈ヤドカリ(宿借り)〉という意味なの」
「貝殻を背負っている、あのヤドカリですか。そういえば、訳アリ物件を渡り歩く暮らしはヤドカリそのものですね」

 ミニパトが速度を落とし始め、やがて停車した。大きく一回りをして、待ち合わせをした交差点に戻ってきたのだ。ワタルはミニパトから降りてから、こう付け加えた。

「でも、無理してローンを組んだりして一軒家を買うよりも、ヤドカリ暮らしの方がずっと気楽でいいですよ」

 黄昏時の歩道で、走り去るミニパトを見送った。美羽がリアウィンドウ越しに手を振っている。次回のコスプレは何なのか、そう考えただけで、ワタルは笑顔になっていた。


                   了

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みんなの感想(1件)

堅他不願(かたほかふがん)

 良くまとまった構成で一気に読めました。証人保護プログラムを題材にしたのも斬新な着想だと思います。
 なお、ハーミットで隠者と思い込んでいたのも白状致します。

坂本 光陽
2019.06.08 坂本 光陽

『公的失踪オルタナライフ』の御感想をいただき、ありがとうございました。めったにいただかないものなので、とてもうれしいです。

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