銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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逆面接②

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 桐野さんが一枚板のカウンターに指先を滑らせる。

「磨きぬかれた黒檀こくたんですね。使い込まれて、とてもおもむきがあります。酒棚の高さと奥行きも使いやすそうだ」

「へへっ、掘り出し物だと思います。祖父の古い友人から、この物件を勧めてもらいました。ほとんど居抜いぬきで、そのまま使えると考えています」

 私の祖父,雪村隆一郎は、伝説のバーテンダーと呼ばれている。業界では祖父を知らない人はいない、と言われているほどだ。

「雪村隆一郎の孫娘として、恥ずかしくないお店をつくりたいんです」

 それが、私の掲げた目標であり、桐野さんを口説かなくてはならない一番の理由だった。

 桐野さんの表情や態度に、あまり変化はなかった。祖父への称賛や、愛想笑いは皆無。口元をキュッと歪める、あの笑顔を浮かべただけだった。

 西麻布で出会った時から、桐野さんのアクの強さ、とっつきにくさは何となくわかっていた。でも、それぐらいは突破してみせる。

 年上の男性を口説くのに、無理して背伸びしても仕方がない。ここは正攻法でアタックあるのみ。
 とりあえず、私たちは窓際のボックス席に腰を下ろした。今更だけど、名刺交換をする。

「あの、私のことは、雪村ではなく、ミノリと呼んで下さい。祖父,雪村隆一郎と混同してしまいますし、その方が呼ばれ慣れているので」

 桐野さんは頷いた。

「わかりました。ミノリさん」

 いただいた名刺に記されているのは、桐野黎児という氏名と携帯番号だけ。会社組織に属していないからだ。自由業であり、個人事業主こじんじぎょうぬし。身近にいなかったタイプだし、そのせいか、より一層、大人っぽさを感じさせる。

 正直いって少しばかり、心がおどっていた。独身と聞いているけど、彼女はいるのかな? もし、いないのなら、私、立候補してもいいですか?

 ここまで考えてハッとした。いやいや、私ったら何を考えているの。ビジネスの面談なのに、そんな浮ついた気持ちでどうする。小さく息を吸い込んで、キュッと気を引き締めた。

 私は笑顔で口火を切る。

「このお店を紹介された時、一目で気に入りました。大家さんはなかなか本気にしてもらえませんでしたけど」

「どうしてですか?」

「ほら、私って童顔だから、よく高校生に間違えられるんです。真夜中に繁華街を歩いていると、よく警察官から声をかけられます。悔しいことに、家出娘に間違えられるんですよ。子供に見られるのは、私のコンプレックスなんです」

 桐野さんは首を横に振った。

「いえ、ミノリさんはしっかりしておられます。とても子供に見えませんよ」
「本当ですか?」
「嘘は言いません」

 ふふっ、私は心の中でほくそ笑む。でも、桐野さんはこう続けた。

「もし、そう見られるとしたら、あなたの言葉遣いに原因があるかもしれませんね。語尾をのばさないこと、声のトーンをおさえること。この二つに注意するだけで、落ち着いて見えると思いますよ」

 穏やかな口調で注意されてしまった。学生気分の抜けないバカ娘。そう見られた気がして、急に恥ずかしくなった。
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