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逆面接③
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私は今、桐野さんの面接をしている。それは同時に、桐野さんの面接を受けているということだ。信頼できる雇い主なのかどうか、厳しいチェックを受けている。
「ひとつ言わせてもらいましょう」桐野さんが穏やかな口調で言った。「雪村隆一郎さんがカクテル・バーのオーナー・バーテンダーになったのは、20代でした。その後、30代で独特な創作カクテルを編み出し一世を風靡しました。20代の経営者は、決して早すぎないと思いますよ」
いつもの眼ヂカラは影を潜め、今日は威圧感を感じさせない。どちらかというと、あたたかく見守るような視線。桐野さんは私の9つ上の33歳だ。あぶなっかしい小娘を見つめる保護者的な目線なのかもしれない。
ここで、祖父,雪村隆一郎について述べておこう。祖父は伝説的なバーテンダーだった。銀座の【銀時計】で祖父の作るカクテルは、多くの人に深く愛された。特に、作家や俳優など著名人から高く評価されたという。
それは、どのようなカクテルだったのか?
カクテルは大きく2つに分けられる。ジン・トニックやマティーニなど、レシピがスタンダードである〈定番カクテル〉。もう一つはバーテンダーが独自に考案した〈創作カクテル〉だ。(〈創作カクテル〉が長い時を経て、〈定番カクテル〉になることはあるけどね)
雪村隆一郎を有名にしたのは、後者の〈創作カクテル〉だった。例えば、未来を照らす光を与えてくれるカクテル、郷愁を味合わせてくれるカクテル、グラスの中に虹があらわれるカクテルなんてものもある。
どうだろうか? 私は想像しただけでワクワクしてしまう。
祖父が考案した一連の創作カクテルは、【雪村カクテル】と呼ばれている。ただ、残念ながら、そのレシピは一つも残されていない。メモや覚書などのヒントすらない。唯一手がかりとなりそうなものは、それらを口にしたお客さんの話だけである。
私は、このミステリーを解こうと考えている。それは、小娘のささやかな野心だ。
「桐野さん、私はこのお店を、祖父の【銀時計】のようなお店にしたい、と考えているんです」
無謀な計画であることは百も承知だ。笑われるかもしれないと思ったが、桐野さんはクスリともしなかった。
「その口振りだと、ミノリさんは【銀時計】に行ったことがおありのようですね」
「はい、子供の頃から何度も遊びに行きました。再開発で移転した後ですから、二代目の【銀時計】の方ですが」
初代【銀時計】は古いアルバムで写真を見ただけだけど、二代目ならよく覚えている。
最も大切な思い出の一つだ。幼い私が両手で扉を押し開くと、いつだって満面の笑顔が出迎えてくれた。休日になると決まって、「お祖父ちゃんのお店に行こう」と両親にねだったものだ。
祖父は決まって、自家製のアップルジュースとバニラアイスクリームを出してくれた。その二つは今も、私の大好物である。祖父が亡くなり、【銀時計】が閉店して10年が経っても、それだけは変わらない。
「ひとつ言わせてもらいましょう」桐野さんが穏やかな口調で言った。「雪村隆一郎さんがカクテル・バーのオーナー・バーテンダーになったのは、20代でした。その後、30代で独特な創作カクテルを編み出し一世を風靡しました。20代の経営者は、決して早すぎないと思いますよ」
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「その口振りだと、ミノリさんは【銀時計】に行ったことがおありのようですね」
「はい、子供の頃から何度も遊びに行きました。再開発で移転した後ですから、二代目の【銀時計】の方ですが」
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