銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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逆面接⑤

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 桐野さんは立ち上がって、
「はじめまして、桐野黎児です」と、一礼をする。

 相葉さんはもう一度、うんうんと頷いて、長身のバーテンダーを見上げて、
「わしはアンバサダーの相葉だ」

 あれ、アンバサダーとは大使とか仲介役という意味だ。後見人が確か、ガーディアンだけど。

「アンバ、サダーのアイバだ」

 桐野さんが困り顔で私の方を見た。

「相葉さん、ひょっとして、アンバとアイバをかけましたか? いわゆる、親父ギャグですか?」私は真顔で口を挟む。「申し訳ありませんが、少々わかりづらいです」

 相葉さんには本当にお世話になっているし、心から敬意を払っている。でも、こういう指摘は遠慮なくさせてもらう。相葉さんは肩をすくめて、ペロリと舌を出した。

「とにかく座ろう。首が疲れてかなわん」そう言って、相葉さんは私の隣に腰を下ろした「話の腰を折って悪かったな。じゃ、ミノリちゃん、肩肘張らずにリラックスして、いってみようか」

「はい」私は気を取り直して、面接を再開する。

「三代目【銀時計】には、肝心要のバーテンダーが欠けているんです。人選では随分悩みました。難しいことは百も承知で、【雪村カクテル】に匹敵する創作カクテルの展開を考えていますし、そもそも【銀時計】の看板を背負えるような方が、簡単に見つかるものではありません。あまりに難航していたので、【銀時計】復活計画を一時凍結しようか、と思ったほどです」

 私は桐野さんを真っ直ぐ見つめる。

「でも、そんな時、西麻布のパーティで、桐野さんをお見かけしたんです」
「西麻布というと、一年前のことですね」
「ええ、そうです。覚えていらっしゃいますか?」

「もちろん、覚えていますよ。ミノリさんのリクエストは確か、ジン・トニックにブラッディ・メアリー、ラストはマンハッタンでしたね」

「その通りです。会場には30人以上いたのに、よく覚えていますね」
「大したことではありません。バーテンダーなら誰でも覚えていますよ。職業病のようなものです」

 考えてみれば、当たり前か。一流のバーテンダーは、お客様の顔と注文内容、カクテルの好みを絶対に忘れない。祖父,雪村隆一郎もそうだったらしい。

「お世辞抜きで、あの時のカクテルが忘れられません。この人だ、この人しかいない、そう直感しました」
「ありがとうございます。僕のカクテルを気に入っていただけたことは、素直にうれしいですね」

「いえ、気に入ったどころではありません。桐野さんのカクテルは、どれも定番カクテルでありながら、大胆なオリジナリティを感じさせる一杯でした」

「桐野くんの噂は、わしの耳にもチョコチョコ入っとる」と、相葉さんが言った。「実力は業界の5本の指に入るが、カクテル・コンペティションの優勝経験はゼロ。というより、出場したことがないんだったか」

「ええ、バーテンダー協会には所属していませんので」桐野さんはあっけらかんと言い放つ。
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