銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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【龍馬カクテル】Ⅱ③

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 桐野さんは神妙な顔つきで、
「あれから、ミノリさんに言われたことを考えましたよ」
「えっ?」

「ほら、言われたでしょ。“【龍馬カクテル】と呼ぶには、あまりにも洗練されています”って」
「ええ、言いましたね。本当に申し訳ありません。小娘が生意気なことを……」私は深々と頭を下げる。

「いえ、正直、耳が痛かったです。一瞬、“素人に何がわかる”と思いましたが、お客様は皆素人ですからね。どうやら、方向性が間違っていたようです」

「えっ? どういうことですか?」

「ミノリさんは何一つ間違っていません。冷静に考えてみれば、なるほど僕の慢心,未熟さが原因です。あなたは、そのことを気づかせてくれました」

 驚いたことに、桐野さんはペコリと頭を下げた。
「ありがとうございます。どうか今後とも、よろしくお願いします」
「いえいえ、やめてください。私なんかに頭を下げないでください」

 私は面食らって、また両手をワイパー状態。

 とりあえず、私のわだかまりは一掃された。心はすっきり爽やか、きれいに澄み切っている。我ながら単純だとは思うけど。

 床に眼をやって気づいた。ダンボールがもう一つ残されている。コーヒーメーカーのそれより一回り小さく、ペタンと「割れ物注意」の赤シールが貼られていた。

「こっちの梱包も解きましょうか?」
「ええ、お願いします」

 持ち上げると意外に重い。とりあえず、テーブルの上に置く。中身は何だろう。ガムテープをはがす前に、伝票の記載が眼に入った。

 送り主の名字は、伊吹。下の名前はリオナではない。住所が滋賀県になっているので、たぶんリオナさんの御実家で、お母さんか親戚なのだろう。

 そして中身は、ごくありふれたお酒だった。なつかしい夏を連想させるお酒。どこの家でも手軽に作ることができるし、市販の商品もあるのに、どうしてわざわざ送ってもらったのだろう。

 ダンボールやガムテープの切れ端などをまとめ、ゴミ集積場に運び終えて店内に戻ってくると、コーヒーの芳香が漂っていた。

「ミノリさん、一杯いかがですか?」
「……はい」

 困ったな。真夏にホットコーヒーを飲む習慣はないし、元々コーヒーは苦手なのだ。

 でも、【龍馬カクテル】がらみなら、飲まないわけにはいかないだろう。

 私は猫舌なので、コーヒーに息を吹きかけ、冷ましたところを口に含む。

 だけど、やっぱり、にがーい。通ぶって、砂糖を遠慮したことを後悔した。私の表情を見かねて、桐野さんはシュガーパックをくれた。とほほ、これは恥ずかしい。
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