銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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【龍馬カクテル】Ⅱ⑤

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「了解。じゃ、明日の夜、そっちに顔を出すね」

 思いがけず、即答だった。明後日以降はスケジュールがびっしりらしい。通話を終えて、桐野さんにその旨を伝える。

「わかりました。それまでに【龍馬カクテル】を完璧に仕上げておきます。その前にミノリさん、召し上がりますか?」
「ええ、お願いします」

 それがもちろん経営者の義務だし、一体どんなカクテルなのか、本当に楽しみである。桐野さんの自信作に、私は好奇心を抑えられない。

 そんな私の目の前で、桐野さんは新しい【龍馬カクテル】を作り始めた。


 祖父,雪村隆一郎は、伝説のバーテンダーだった。

 その日の天候,温度,湿度、お客様の好み,体調,気分によって、カクテルのレシピを微妙に変えていたという。定番カクテルでさえ、そうだった。創作カクテルとなると、アドリブを利かせて、ベースのお酒から,合わせる飲料,副材料,作り方まで、ガラリと変えたらしい。

 それはある意味、〈シェフの気まぐれサラダ〉ならぬ、〈バーテンダー気まぐれカクテル〉。創作カクテルの魅力は、そういったライブ感覚にあるのかもしれない。

 そのお客様がその夜、【銀時計】を訪れたからこそ出会うことのできた、その状況でしか生まれ得なかった、奇跡のようなカクテルというわけだ。


 今夜の桐野さんは、どうだろうか?

【龍馬カクテル】は、奇跡を起こせるだろうか? 少し不安はあるけれど、おそらく起こせるはずだ。いや、起こせると信じよう。

 関東圏のどこかで、今年の最高気温が更新されたらしい。こんな日に限って、都内各地を飛び回り、多くの打ち合わせをこなさないといけない。冷蔵庫状態の東京メトロと、灼熱地獄の街角を往復するだけで、身体の調子がおかしくなる。

 熱風にあおられただけでクラクラくるけど、両頬を叩いて気合を入れる。暑さなんかに負けていられない。難問をかかえて都内各地を巡り歩き、どうにかこうにか【銀時計】へと帰りついた。

 エアコンのスイッチを入れると、はしたないけど、真っ先に冷蔵庫を開けた。冷えた麦茶を飲んで、ホッとひと息つく。

 冷蔵庫には、プラスチック・ボトルに入れたコーヒーが冷やしてあった。冷凍庫には、もう一つのプラスチック・ボトル。こちらの中身は、リオナさんの実家から送られてきたお酒だ。桐野さんは夕べのうちに仕込みを済ましていた。

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