銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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Gカクテル⑧

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 桐野さんは続いて、私の分を作り始めた。

 では、レシピを紹介しよう。まず、オールドファッションド・グラスに氷を落とす。ベースになるお酒はドライ・ジンになり、そこへアップルとメロンのリキュール、ブルー・キュラソーを注ぐ。深みのあるグリーンのポイントは、このブルー・キュラソーにあるらしい。仕上げに、バー・スプーンでステアをする。もちろん、桐野さんのサイレント・ステア。

 さぁ、できた。そのカクテルが私の前にやってくる。怪獣のゴジラは苦手だけど、こちらの【ゴジラ】は大歓迎。

「いただきます」私は【ゴジラ】を口に含んだ。

 うーん、父さんの言う通り、爽やかな口当たり。ほんのり甘口だ。
 これが【ゴジラ】かぁ。気づくと、父さんは私を見て、にやにや笑っている。何だか嫌な予感。

「シミジミ思うよ。こうしてミノリと一緒に飲めるなんてなぁ」
「何いってるの、ここでは初めてだけど、家では何度も飲んでいるじゃない」
「いやいや、そういう意味じゃない。あの頃は、このカクテルを一緒に飲むなんて、想像すらしなかったなぁ」

〈あの頃〉に微妙なアクセント。ますます、嫌な予感がする。せっかく、これまでいい感じだったのに、お願いだから、黙って飲んでいてもらいたい。

「父さん、やめてよね。余計なことは言わなくていいから」
「あれから、20年近くかぁ。桐野さん、聞いてよ、こいつはゴジラの像に驚いて、大泣きしたことがあってね」
「父さんっ!」

 せっかく、いい感じだったのに、案の定である。成人した娘をつかまえて、まるで幼児扱いじゃない。桐野さんの前なのに、どうして不愉快なことを口にするのだろう。男女の違いを考えに入れたとしても、父親の考え方はまったく理解できない。

 父さんは変わらない。呆れるぐらいに、昔から少しも変わらない。本人はユーモアのつもりかもしれないけど、乙女心を手ひどく傷つける。それも無神経という名の大根おろしでズリズリすりおろすのだ。

 でも、私だって成長した。作り笑顔を浮かべて、怒りぐらい押し殺せる。桐野さんの前で、みっともない姿は見せたくないからね。

「でも、ゴジラって緑かなぁ。私はどちらかというと、黒のイメージですね。桐野さん、どう思いますか?」

 こんな風に話題をそらすぐらい、軽いもんだ。

「そうですね。第1作と第2作はモノクロ映画でしたし、確かに黒のイメージですね。カラーになってからのポスターを見ると、昭和のゴジラは緑っぽかったり赤茶けていたりします。ただ、ゴジラ関連本で読んだのですが、実際の着ぐるみの色は濃い灰色だったそうですよ」

「濃い灰色というのは、カクテルの色にはマッチしませんね。この緑は素敵ですけど」そう言って、私はグラスを掲げる。

「ゴジラの色というなら、もう一つきれいな色があるな」父さんがポツリと言った。
「ええ、確かにありますね。きれいな色がもう一つ」桐野さんが頷く。
「えっ、何ですか? それって、どんな色ですか?」私は訊ねる。
「ミノリ、少しは自分で考えてみろよ」と、父さん。

 頭をひねってみたけれど、私には見当もつかない。悔しいけれど、両手を上げた。

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