クリスマス・デス ~25歳で死ぬ病~

坂本 光陽

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デスカーニバル④

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 時を同じくして、空も泣き出した。激しい雨が荒川河川敷を襲う。大きな雨粒が高密度で降り注いだ。

 マキナと濃紺ツナギたちは車内や木陰に退避したが、海老丸は凄惨な現場に残った。詩織を抱いた恭介に付き合って、豪雨に打たれている。詩織の血と恭介の涙は、滝のような雨に洗い流されていく。

 10分ほど経つと、雨は唐突に上がった。どす黒い雲が逃げるように流れていく。

「やはり、通り雨でしたね。大気中の細かなゴミが洗い流されて、空気がとても澄んでいますよ」海老丸は大きく深呼吸をする。「尾白さん、ほら、光の階段ですよ。深原さんはきっと、天国に招かれたのでしょう」

 天空から斜めに光のラインが伸びている。雲の裂け目から陽が射しているのだ。

 まもなく、陽が暮れそうだ。恭介は黄昏の中で、詩織を抱きしめている。無言のまま、身動き一つしない。まるで、彫像のように固まっている。

「気を使って話しかけているのに、無視しないでもらえませんかね」海老丸が珍しく、不機嫌そうな声を出した。「なんなら、今すぐ殺してもいいんですよ」

 海老丸は拳の中から突如、三日月のようなカランビットナイフを現れた。
 だが、恭介は海老丸の方を見向きもしない。詩織の身体を静かに横たえると、フラリと力なく立ち上がる。

「真壁マキナさんはどこにいますか」
「おい、無視するなってんだろっ!」

 海老丸がキレて、カランビットを水平に走らせた。一陣の風が走り抜けた数秒後、恭介の左頬に血の珠が浮かんだ。

 しかし、恭介は平然としていた。驚くほど澄んだ瞳をしている。

 海老丸は身体を沈め、流れるような動きで、恭介の背後をとった。左腕を大蛇のように恭介の首に巻きつけ、一連の流れで、右手のカランビットを頚動脈に押し当てる。

「そんなに掻っ切られたいですか」
 あと数ミリでカランビットを進めれば、切っ先が頚動脈に突き刺さる。それでも、恭介の表情は変わらなかった。

「待ちなさい、海老丸っ」マキナは一喝すると、恭介の前に歩み寄る。「尾白恭介くん、私に何の用かしら?」
「確認したいことがあります。少しだけ時間をもらえますか?」

 マキナが頷くと、恭介は話し始める。
「この六日間で、弱肉強食という言葉を実感しました。最も弱いのは僕たちですね。もし、ルールを破れば、僕たちは海老丸さんたちOMに殺されてしまう。一週間足らずのうちに、六人も殺されてしまった。驚いたことに、森山さんのように殺されるOMもいた。つまり、OMだってルールに縛られているんですね。OMを始末したのは他でもありません。真壁マキナさん、あなたでした」

 マキナは腕組みをして、黙って耳を傾けている。
「では、真壁さんがこのシステムの頂点でしょうか? 僕は違うと思います。このデスゲームは、赤京区という広大な舞台で展開しています。膨大な資金を人員が投入されているはずだし、真壁さんの上に上司、もしくはスポンサーがおられるはずです」

「いつまで続くんだい、その長口上」
 海老丸が茶々を入れたが、マキナが睨みつけて黙らせた。
「尾白くん、続けて」

「このデスゲームの狙いが一体なんなのか、頭の悪い僕には想像もつきません。でも、弱肉強食を打ち破る方法なら、もしかしたら、見つけたのかもしれない。真壁さんの上にスポンサーがおられるなら、その方々はルールによって、真壁さんを縛っているはずです。要は、僕のクレームが、そのスポンサーに届けばいい。僕は絶対にルール違反をしていません、キチンと確認してください、と訴えればいいんだ」

 海老丸は、くくくっと笑い声を立てた。
「バカげていますね。どうやって、それに伝える気ですか?」
「できますよ。たぶん、できると思います」
「戯言はよしてくれないかな。僕は何よりも、時間の浪費が大嫌いなんです」

 海老丸は恭介の頚動脈に、カランビットを押し付けたまま、これみよがしに溜め息を吐いた。

「真壁主任、尾白くんは深原詩織こと森山夕呼を殺せなかった。その機会は失われました。OMに転進する条件が消えた以上、尾白くんのルール違反は確定です。今すぐここで始末しても構いませんよね」

 マキナは腕組みをしたまま、冷たい視線を海老丸を向ける。
「ついさっき頭から血を浴びたばかりなのに、海老丸はまだ血に飢えているようね」

「ええ、飢えています。若い女の血しぶきは最高でした。彼女の絶望,悲哀,覚悟が絶妙にブレンドされていましたからね」

 恭介の身体が怒りで硬直するが、海老丸は気にせずに続ける。

「高品質の血だったのに、雨のせいで流れ落ちてしまいました。願わくば尾白くんの血で飢えを満たしたいのですが……」

 マキナは軽蔑をするように、鼻を鳴らして笑った。
「主任、今、笑いましたね。ええ、僕は変態ですよ。変態でなければ、OMは務まりません。でも、主任も同類じゃないですか。血に飢えていなければ、自分の手を汚していないとはいえ、三桁の人間を葬るなんてできはしません」

「三桁?」恭介は聞きとがめる。

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