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デスカーニバル⑤
しおりを挟む「尾白くん、驚きましたか。本当の数字です。そもそも、赤京区は昔から、血にまみれた土地柄ですからね。殺人衝動のある人間は、ここにいると皆、その素養が活性化してしまうのです。大地に染みこんだ血の量は、きっと全国一でしょう」
「そのことは嫌というほど思い知ったよ」
「まさに、血まみれの殺人特区ですよ。ほら、〈クリスマス・デス〉の噂を知っていますか? 25歳の男女が次々と死んでいるのも、呪われた土地柄と無関係じゃない。僕にとっては、まさにパラダイスですよ」
マキナはパンパンと手を打ち鳴らし、
「海老丸、無駄口をたたくのは、それぐらいにしておいて。尾白くん、私が海老丸と同類であるかどうかはさておき、彼の言う通り、君が生き延びる条件がなくなったことは確かね。さて、どうしましょうか」
その時、恭介が顔を伏せたまま、八文字の言葉を口にした。
「クギレンシンパン」と、明確に。
死の間際、詩織が恭介に教えてくれた〈おまじない〉だ。恭介は顔を上げて、真っ直ぐな視線をマキナに向けた。
「クギレンシンパンとは、たぶん〈区議連審判〉でしょう。赤京区の区議たちが下す審判という意味ですよね」
マキナと海老丸は驚愕の表情を浮かべていた。詩織が言った通り、効き目があったらしい。
「どうして……、どうしてですか?」海老丸が苦しげに声を絞り出した。「どうして、その言葉を……。いや、君が知っているはずがありません。その情報はカードホルダーに開示されていないのだから」
迷いを断ち切るように、カランビットを振り上げた。
「口から出任せはいけませんねっ」
出任せではない。恭介には確信があった。この推理は的中している。だからこそ、海老丸は右手を震わせて、振り下ろせずにいるのだ。
恭介は心の中で、詩織に感謝した。詩織から耳打ちされた〈おまじない〉は確かに効いた。その場しのぎかもしれないが、恭介は救われたのだ。
なぜ、この八文字が、〈おまじない〉たりうるのか?
恭介は豪雨に打たれながら、ひたすら考えた。六日間の出来事を振り返り、必死に頭を振り絞って、この結論に辿りついたのだ。
しかし、海老丸など眼中にはない。恭介はジッと真壁マキナを見つめる。
真っ赤な口が三日月の形を描く。真壁マキナは口角が上げて、愉快そうに笑っていた。
「君が〈区議連審判〉を求める案件は、ルール違反がらみ、でいいのかしら?」
「はい、チラシを返しただけで、〈ゴミのポイ捨て〉と解釈されてはかないません」
海老丸は反論する。
「バカバカしい。主任、議論の余地はありませんよ。さっさと処分させてください」
「ダメよ、海老丸。私たちの会話はすべて、中央管制システムでモニターされている。尾白くんの発言は一字一句記録された。小手先のごまかしは不可能よ。ペテンめいた考えは捨てることね」
「そんな、バカな……」
「〈区議連審判〉の結果が出るまで、尾白くんの処分は凍結される。わかったら、尾白くんから離れなさい」
そう言って、マキナはスマホにタッチして、どこかに連絡をとり始めた。〈区議連審判〉とやらの申請をしているのだろう。
海老丸はマキナをしばらく睨みつけていたが、素直にカランビットを拳の中に仕舞った。恭介に巻きつけていた腕を解いて、クルリと背を向ける。
恭介は息を吐いた。命拾いしたのか? いや、まだ安心はできない。もしルールを破れば、あっさり殺されるのだ。絶望的な状況は少しも変わっていない。
濃紺ツナギたちが、詩織の遺体を寝袋もどきに詰めて運んでいく。荷物のように淡々と扱われている。
おそらく、赤京区は全国一、命の重さが軽いのだろう。だから、危機感と警戒心、注意力を発揮して、自分の身を守らなくてはならない。緊張を解くことはできない。
海老丸はカランビットで背の高い葦をなぎ払ったり、水溜りを蹴りつけたりして、駄々っ子みたいに悔しがっていた。自制心を失った殺し屋ほど、怖ろしい者はない。
恭介は海老丸から5メートルほど距離をとり、いつでも逃げ出せるよう、心の準備をしていた。
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