クリスマス・デス ~25歳で死ぬ病~

坂本 光陽

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デスカーニバル⑥

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「尾白くん、説明しておこうか」マキナが語り始めた。「カードホルダーの行為が、ルール違反に該当するかどうか? ジャッジを下すのは、当然、人間なの。アウト・セーフの間にはグレーゾーンがあり、必然的に判断基準はあいまいになる。判断しにくい案件だってある」

 恭介は頷いた。

「そこで、絶対者として九人の区議が登場する。彼らが多数決で、アウト・セーフの審判を下すの。つまり、五人以上の多数意見が審判結果となる。これが〈区議連審判〉。ちなみに、最終決定だからね。裁判とちがって、高裁、最高裁への上告はなし」

 突然、『夢のカリフォルニア』のメロディが流れた。マキナのスマホの着メロだ。
「あら、随分と早く決定したようね」マキナはスマホに目を落とす。

〈区議連審判〉の結果が出たに違いない。アウトなら、恭介は海老丸に殺されることになる。緊張の瞬間だ。マキナはメッセージを黙読している。その顔色や態度から、アウト・セーフの結果は読み取れない。

 恭介と海老丸は、マキナの言葉をジッと待っている。結果は、「ア」か「セ」という最初の一文字で判明する。口が縦に開くか、横に開くか。その結果は?

 ただ、もしかしたらセーフの結果が出ても、海老丸が問答無用で襲ってくるかもしれない。

 恭介は腰を落として、逃げやすい態勢をとった。詩織が助けてくれた命だ。決して無駄にできない。右足首の痛みで全力疾走はできないが、最後まで必死に生き延びてみせる。

 マキナが顔を上げた。恭介と海老丸が注目する中、その口の開いた方向は、横だった。

「セーフよ」

 その瞬間、河川敷に銀色の線が走った。

 何と、海老丸が隠し持っていたナイフを、上司のマキナに向けて放ったのだ。狙いは、左手のスマホだった。スマホはナイフに弾かれて、宙を舞う。

 スマホを遠ざけたのは、体内に埋め込まれたデバイスに、シグナルを送れないようにするためだ。これで、海老丸の心臓を爆破できなくなった。

 海老丸はほくそ笑み、右手のカランビットを閃かせる。濃紺ツナギたちが駆け寄ってきたら、容赦なく切り裂くつもりだった。

 しかし、彼らは身の程を知っている。誰一人、OMの海老丸には近づいてこない。

 海老丸はゆっくり、歩を進める。マキナとの距離を詰めていく。

 マキナは無表情だった。とても落ち着いている。信じられないことに、海老丸の攻撃を読んでいたらしい。

 マキナは後方にステップを踏みながら、右手でもう一つのスマホを取り出し、海老丸に向けて差し出した。

 予期せぬ第二のスマホの出現に、海老丸は足を止める。

「海老丸、あまり見くびらないで。君の目つきを見れば、誰を殺したがっていることは、丸分かりよ」マキナは薄く笑う。

 海老丸は虚をつかれた顔になり、こともあろうか赤面をした。マキナをいたぶって殺す情景を妄想していた海老丸にとって、それを察知されていたことはマスターベーションを母親に見られたことに等しい。

「……サ、サノバビッチ!」

 怒りで走り始めた海老丸だったが、マキナがスマホにタッチする方が速かった。しかも、一台目のスマホには二秒のタイムラグがあったのだが、緊急用の二台目は最新モデルである。

 海老丸の個人識別コードが、彼の心臓に埋め込まれたデバイスへと送信されると、瞬時にマイクロ爆弾が反応する。

 ポンっ!

 間の抜けた音が上がり、心臓は破裂した。海老丸はよろめきながら、マキナの横を通り過ぎ、胸と背中の両方から血を噴きながら、壊れた人形のように昏倒する。

 恭介は逃げるのも忘れて、その情景に目を奪われていた。

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