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イケメンディレクター②
しおりを挟む「ほらほら、何フリーズしているの。こちら、ディレクターの水島さん」
「え、え、あの」
水島Dが微笑んだ。わーっ、オーラだ、オーラっ! バラ色の笑みって初めて見たよ!
そんな心の叫びに気づかずに、イケメンDはサングラスのツルを唇の端でくわえつつ、右手を差し出す。
「フレッシュガールの頑張りに期待しているよ」
「はじめまして、椎名ミルコです。よろしくお願いします。」
ガッシリした大きな手が、私のきゃしゃな手を包み込む。わぁ、ドキドキ。
「じゃ、早速だけど打ち合わせ」
歩幅の大きな水島Dを小走りに追いかける私。あちこちの関節が油切れを起こして、腕と脚の動きをギクシャクさせているのは、極度の緊張のせいだ。真希さんが気づいて失笑しているが気にしない。イケメンDと一緒に大好きな『マニア』の仕事ができるなんて、まるで夢のようだからね。
私たちは小会議室に入った。丸テーブルを挟んで向き合っていると、会議室じゃなくて、高層ホテルのカフェテラスのように思えたよ。コーヒーはセルフサービスだけど、日当たりの良い8階の窓からは、東京タワーを中心にしたビル街が眺められる。
イケメンDは熱っぽく語った。
「『マニアの王様』は業界でも評判だし、ライバル番組関係者の注目度も高い。だからボクらは常に新しい素材と切り口を求めているし、絶対に妥協しないんだ。スタッフ全員に第一線のプライドがあるからね」
さらに身を乗り出して、
「君に頼みたいのはマニアさんの〈人出し〉だ。テレビ映えのするキャラの良い素人をバンバンリストアップして、僕に提案してよ。例えば、これまで取り上げた中で、評判が良かったのはね」
こんなマニアさんが視聴率をとったという事例説明が続く。私は頷きながら、B5版のノートにメモをとる。後で見ても解読不明な殴り書きだけど。
ちなみに〈人出し〉とは、番組取材に協力してくれる人を探し出すこと。この場合、ユニークな物を集めていて、そのコレクションの撮影だけでなく、普段の生活や家族のコメントを含めて、一切合財取材OKの人を意味する。そんな奇特な人を探し出すのが、私たちリサーチャーの仕事だ。
「君の感性に期待するよ」と、さわやか笑顔。
「わ、わかりました。頑張りますっ」と、私。
よっしゃ、期待に応えてやろうじゃない。イケメンがらみのおかげで、この時、私のモチベーションは入社以来の最高値を指していた。
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