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天狗もどきと眠り姫①
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雷神社が鬱蒼とした森の中にあるせいか、街中よりも早く夕暮れがやってくる。森が紅葉に色づいていることを相まって、亜湖と天音が到着したときには、すでに境内は茜色に包まれていた。人の気配は皆無であり、静寂が支配している。時折り、鳥の囀りが聞こえるぐらいである。
「この時間帯に来るのは初めてだけど……」と、亜湖が呟く。「少し気味が悪い」
天音は微笑みながら、
「空が黄昏色に染まる時間帯は逢魔が時といって、魔物に出会いやすいと言うからね」
「ちょっと、あまり怖いこと言わないでよ」
「でも、この時間帯だからこそ、意味がある。目的が魔物ではなく、七海さんたちをさがす意味でもね」
「どうして? 本当に天狗が関わっているから?」
「当たらずとも遠からず。少なくとも妖怪がらみだな」
境内が不気味な雰囲気なので、亜湖は笑うに笑えない。
「ねぇ、天音くんって、一体何者?」
天音は何も答えず、古びた本殿に向かっていく。亜湖も後に続く。昨日は本殿の中までは確認できなかったのだ。
しかし、5m手前で天音が立ち止まる。
「天音くん、どうしたの?」
「少し離れて。出てくるぞ」
「出てくる? 何が?」
「とにかく禍々しいものだ」
本殿から大きな音が上がり、亜湖は飛び上がるほど驚いた。見ると、古びた扉を乱暴に開いて、巨大な人影が姿を現したところだった。
これは人間なのだろうか? スウェットの上下に身を包んでいるが、顔は毛むくじゃらで、髪は伸び放題、靴も履いていない。全身から悪臭を漂わせており、まるでケダモノだった。
亜湖は悲鳴を上げて、天音の後ろに隠れる。
「何なに、あれは何!?」
「天狗もどき、かな」
「はあっ、天狗もどき?」
「ほら、うぬぼれの強い奴のことを『天狗になった』っていうだろ?」
「それ、どういう意味? わっ、こっちに来る」
ケダモノが身体を左右にゆらしながら近づいてくる。分厚い胸板、太い腕、まるでプロレスラーのような体格だ。最初は鈍重な動きだったが、コキコキと関節を鳴らし、突然、二人に向かって突進してきた。
「この時間帯に来るのは初めてだけど……」と、亜湖が呟く。「少し気味が悪い」
天音は微笑みながら、
「空が黄昏色に染まる時間帯は逢魔が時といって、魔物に出会いやすいと言うからね」
「ちょっと、あまり怖いこと言わないでよ」
「でも、この時間帯だからこそ、意味がある。目的が魔物ではなく、七海さんたちをさがす意味でもね」
「どうして? 本当に天狗が関わっているから?」
「当たらずとも遠からず。少なくとも妖怪がらみだな」
境内が不気味な雰囲気なので、亜湖は笑うに笑えない。
「ねぇ、天音くんって、一体何者?」
天音は何も答えず、古びた本殿に向かっていく。亜湖も後に続く。昨日は本殿の中までは確認できなかったのだ。
しかし、5m手前で天音が立ち止まる。
「天音くん、どうしたの?」
「少し離れて。出てくるぞ」
「出てくる? 何が?」
「とにかく禍々しいものだ」
本殿から大きな音が上がり、亜湖は飛び上がるほど驚いた。見ると、古びた扉を乱暴に開いて、巨大な人影が姿を現したところだった。
これは人間なのだろうか? スウェットの上下に身を包んでいるが、顔は毛むくじゃらで、髪は伸び放題、靴も履いていない。全身から悪臭を漂わせており、まるでケダモノだった。
亜湖は悲鳴を上げて、天音の後ろに隠れる。
「何なに、あれは何!?」
「天狗もどき、かな」
「はあっ、天狗もどき?」
「ほら、うぬぼれの強い奴のことを『天狗になった』っていうだろ?」
「それ、どういう意味? わっ、こっちに来る」
ケダモノが身体を左右にゆらしながら近づいてくる。分厚い胸板、太い腕、まるでプロレスラーのような体格だ。最初は鈍重な動きだったが、コキコキと関節を鳴らし、突然、二人に向かって突進してきた。
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