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亜湖の中の男①
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亜湖が目覚めたのは翌朝、桃乃華市民病院のベッドの上だった。
七海を含む女子高生も同じ部屋で横たわっているが、相変わらず意識を失ったままである。担当医によると、原因不明の意識障害であるらしい。
警察の事情聴取にも応じた。若手とベテランの刑事が二人でやってきて、根掘り葉掘り尋ねられた。雷神社の本殿で七海たちを発見したこと、犯人らしき巨大な男を目撃したことは説明した。
でも、毛むくじゃらの顔をしたケダモノであることは言えなかった。客観的に判断して信じてもらえないと思ったからだ。妖怪が名物の町であっても、実際に妖怪を見たと口にすれば、間違いなく正気を疑われる。
あと気になったのは、若い刑事から訊かれたこと。
「小津野さん、上級生の犬飼くんのことは知っているかな」
「野球部の犬飼さんのことですか?」
若い刑事は大きく頷いて、
「そう、その犬飼くん。有名人だったよね」
犬飼は弱小校のピッチャーでありながら、昨年、強豪相手に完全試合を達成した。ドラフト会議にかかるかもしれない、とマスコミで騒がれたが、結局そんなことはなかった。当人のショックが大きく、そのせいでノイローゼになったらしい。
「彼は今年の初めに行方不明になっている」若い刑事が犬飼の顔写真を差し出した。「どうだろう。君が現場で見かけた男というのは、犬飼くんじゃなかったかな」
「さぁ、遠目だったので、何とも言えません」と、亜湖は応えた。実際には毛むくじゃらだったので、顔の判別がつかなかったのだが。
七海を含む意識不明の3人に、一つの共通点が見つかったらしい。犬飼と同じクラスだったり、元彼女だったり、幼馴染だったりしたのだ。ちなみに、幼馴染とは七海のことだった。
あのケダモノの正体が、犬飼さん? そんなことが実際にあるのだろうか?
もう一つ、天音はどうしたのだろう?
警察が雷神社に到着した時、天音の姿は見当たらなかったらしい。ケダモノとの闘いで重傷を負ってやいないか、亜湖は気が気でなかった。警察が帰ってからクラスメイトに確認すると、当の天音は元気で登校していたので、ホッと胸をなでおろしたのだが。
翌日、亜湖は健康状態に問題なしと判断され、無事退院を果たした。亜湖の頭の中を占めていることは、あの後、雷神社で何があったか、ということだ。天音に問いただすために、母親が止めるのもきかずに登校した。
ちょうど昼休みだったので、亜湖は体育館の裏に天音を引っ張っていった。天音が呑気な表情と態度なので、苛立ちを覚えつつ、
「とりあえず元気でよかったけど、天音くん、あの後、何があったの? 私や七海をほっといて、どこに行っていたのよ」
「ああ、それには理由があるんだよ。俺は生まれつき、警察とは相性が最悪だからね。まさか、人ならざる姿を見せるわけにいかない」
亜湖は少し考えてから、
「大きなケダモノのこと? どうやって撃退したの?」
天音は苦笑交じりに溜め息を吐き、
「小津野さん、本当にきれいさっぱり忘れているんだね」
「何のこと?」
「まぁ、いいや。さっきの質問に戻るよ。あの後、何があったのかだけど、小津野さんは一喝したんだよ。俺と、あのケダモノに向かって」
「一喝? 私が? 冗談でしょ」
そう言ってから、亜湖の記憶にふつふつと湧き上がるものがあった。
七海を含む女子高生も同じ部屋で横たわっているが、相変わらず意識を失ったままである。担当医によると、原因不明の意識障害であるらしい。
警察の事情聴取にも応じた。若手とベテランの刑事が二人でやってきて、根掘り葉掘り尋ねられた。雷神社の本殿で七海たちを発見したこと、犯人らしき巨大な男を目撃したことは説明した。
でも、毛むくじゃらの顔をしたケダモノであることは言えなかった。客観的に判断して信じてもらえないと思ったからだ。妖怪が名物の町であっても、実際に妖怪を見たと口にすれば、間違いなく正気を疑われる。
あと気になったのは、若い刑事から訊かれたこと。
「小津野さん、上級生の犬飼くんのことは知っているかな」
「野球部の犬飼さんのことですか?」
若い刑事は大きく頷いて、
「そう、その犬飼くん。有名人だったよね」
犬飼は弱小校のピッチャーでありながら、昨年、強豪相手に完全試合を達成した。ドラフト会議にかかるかもしれない、とマスコミで騒がれたが、結局そんなことはなかった。当人のショックが大きく、そのせいでノイローゼになったらしい。
「彼は今年の初めに行方不明になっている」若い刑事が犬飼の顔写真を差し出した。「どうだろう。君が現場で見かけた男というのは、犬飼くんじゃなかったかな」
「さぁ、遠目だったので、何とも言えません」と、亜湖は応えた。実際には毛むくじゃらだったので、顔の判別がつかなかったのだが。
七海を含む意識不明の3人に、一つの共通点が見つかったらしい。犬飼と同じクラスだったり、元彼女だったり、幼馴染だったりしたのだ。ちなみに、幼馴染とは七海のことだった。
あのケダモノの正体が、犬飼さん? そんなことが実際にあるのだろうか?
もう一つ、天音はどうしたのだろう?
警察が雷神社に到着した時、天音の姿は見当たらなかったらしい。ケダモノとの闘いで重傷を負ってやいないか、亜湖は気が気でなかった。警察が帰ってからクラスメイトに確認すると、当の天音は元気で登校していたので、ホッと胸をなでおろしたのだが。
翌日、亜湖は健康状態に問題なしと判断され、無事退院を果たした。亜湖の頭の中を占めていることは、あの後、雷神社で何があったか、ということだ。天音に問いただすために、母親が止めるのもきかずに登校した。
ちょうど昼休みだったので、亜湖は体育館の裏に天音を引っ張っていった。天音が呑気な表情と態度なので、苛立ちを覚えつつ、
「とりあえず元気でよかったけど、天音くん、あの後、何があったの? 私や七海をほっといて、どこに行っていたのよ」
「ああ、それには理由があるんだよ。俺は生まれつき、警察とは相性が最悪だからね。まさか、人ならざる姿を見せるわけにいかない」
亜湖は少し考えてから、
「大きなケダモノのこと? どうやって撃退したの?」
天音は苦笑交じりに溜め息を吐き、
「小津野さん、本当にきれいさっぱり忘れているんだね」
「何のこと?」
「まぁ、いいや。さっきの質問に戻るよ。あの後、何があったのかだけど、小津野さんは一喝したんだよ。俺と、あのケダモノに向かって」
「一喝? 私が? 冗談でしょ」
そう言ってから、亜湖の記憶にふつふつと湧き上がるものがあった。
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