純情 パッションフルーツ

坂本 光陽

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「なら、言っちゃダメかも。エリさんに怒られちゃう」
 魅子さんは唇に人差し指をあてて、いたずらっぽく笑う。

 くーっ、小悪魔っぽくて、これまたキュート。こんなに可愛いのに、彼氏がいないのは絶対おかしい。周りの男どもは何をしているんだ。いや、何かしたら、僕が許さないけど。
 何はともあれ、本人は彼氏の存在を否定する。まんざら嘘ではないらしい。2年前、出会ったばかりの頃、魅子さんはこんなことを言っていた。

「ずっと女子校だったせいで、男の人が苦手なの。出版社って職場は、おじさんばかりなの。機嫌が悪くなると、すぐ怒鳴り散らすし、最初は怖くて仕方なかった。まぁ、失敗ばかりしていた私も悪いんだけどね。新人の時はトイレに閉じこもって泣いてばかりいたっけ」

 一字一句まちがいはないはずだ。我ながら、よく覚えている。
 その時、僕は言ったのだ。
「魅子さん、男が苦手って言うけど、僕だって一応男だよ」

 返ってきたのは、クスクス笑い。
「ごめんね。駿介くんは大丈夫。平気だよ。全然怖くない」

 その言葉に高校生だった僕は若干傷ついた。魅子さんに悪気はないだろうけど、子ども扱いをされた気がして。
 でも、今はこう思う。なら、一人前の男として、魅子さんに認められるようになればいい。ただ、それだけのことだ。無事卒業して就職して、自分で稼げるようになれば……。

 僕のそんな想いを魅子さんは想像もしていないだろう。
「駿介くん、エリさんの帰り遅いね。お先に失礼して、買ってきたデザートを食べちゃう?」
 そう言って、白い紙函をテーブルに置いた。

 中身は僕の大好物だった。カップケーキ。シンプルで素朴な味わいの焼き菓子だ。有名店のそれは、小ぶりのケーキの上に、クッキーやクリームなどのデコレーションが施されている。

「どれでも、好きなのをとってね」
 僕は仔犬のクッキーをのせたものを選んだ。
「あ、やっぱり。それを選ぶと思った。駿介くんは犬好きだもんね」

 いえ、好きなのは犬じゃなくて、ポメラニアンに似た魅子さんですよ。もちろん、口には出さない。クッキーをかじりながら、心の中で呟くだけだ。

「駿介くん、知ってる? イギリスでは、カップケーキを〈妖精のケーキ〉というらしいよ。フェアリィケーキか。とっても可愛らしい名前」

 いえ、もっと可愛らしいのは、それを美味しそう頬張る魅子さんですよ。と、心の中で呟いてみる。
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