純情 パッションフルーツ

坂本 光陽

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 昼下がり、階段教室での講義は、たまらなく眠くなる。
 抑揚のない教授の口調が、より一層睡魔を誘う。学生の半数近くが船をこいでいるはずだ。
 しかし、僕は眠ることはできない。隣の香里に脇腹をシャーペンで突かれるからだ。

「駿介くん、頼まれた取材協力ってさ、何を話せばいいの? キャンパスライフといっても幅広いよ」

 居眠りは言語道断だが、私語は許容範囲らしい。

「何でもいいんじゃないの」
「友達を3人揃えたけど、それで足りそう?」
「充分充分」

 もちろん、魅子さんから依頼された件だ。エリさんの新作のための取材協力。年末に出す予定は、案の定、来春にズレこんだらしいけど。魅子さんが「エリさんの代表作になる」「N賞に今までで最も近い」と言っていた、例の新作がらみだ。


 魅子さんから聞きだした、新作のあらすじはこんな感じ。
 主人公は女子大生。彼女が想いを密かに寄せるのは、ゼミの准教授。彼は独身だが、実は年上の愛人がいた。その愛人とは何と、主人公の母親だったのだ。

 おや、どこかで聞いたような設定。エリさんが僕の想いに気づき、それをモデルに書いたわけではない。何とも皮肉な偶然。おそらく、この主人公に世界で最も感情移入できるのは、他ならぬ僕だ。

「ねぇ、駿介くん」話しかけてくる香里。
「何だよ、講義に集中しろよ」顔を近づけてきて、耳元でそっと囁かれた。
「魅子さんには告白したの?」
「……」

 顔の左側に香里の視線を痛いほど感じる。でも今は講義中だ。申し訳ないが、聞こえなかった振りをさせてもらう。

 さて、僕の片想いは継続中だ。
 エリさんと魅子さんは、強い絆で堅く結ばれている。そのことは、最も身近な僕が一番よく知っている。僕が最も愛している二人の女性。彼女たちの幸せに影を差すことはできない。

 つらくないと言えば嘘になる。でも、今の関係をこわすことはできない。二人が悲しむことは避けなければならない。心から、そう思う。

 好きだけど、魅子さんに告白はできない。僕はずっと、彼女を温かく見守っていくつもりだ。


 講義が終わるのと同時に、僕のスマホがメールを着信した。魅子さんからだ。約束より早目に到着した、とのこと。待ち合わせ場所は第三食堂である。急いだ方がよさそうだ。
 僕は急な階段を駆け下りる。だけど、慌てたせいで足を踏み外し、足首をくじいてしまった。

「いってーっ」
「あーあ、何やってんのよ」

 すぐ後ろで、香里が呆れている。この階段で足首をくじくのは四度目か。自分でも笑ってしまうバカさかげんだ。
 だけど、ものは考えよう。この激痛で、失恋の痛みを忘れることができるかも。強引にでも、そう思い込もうと試みる。

 僕がもっているのは、若さと元気だけ。言い換えれば、伸びしろと可能性だけ。でも、人生は長い。物事は前向きに考えていこう。
 何といっても、まだ20歳にすぎないのだから。


                 了
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