純情 パッションフルーツ

坂本 光陽

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 僕が子供の頃から、エリさんはいつも仕事で忙しかった。
 家事は小学生の頃から分担しているので、僕自身、炊事,洗濯,掃除をするのは少しも苦にならない。今日も早起きをして洗濯をすまし、ベランダに干して陽に当てて乾かす。

 スマホのFMをBGMに、トーストとハムエッグ、サラダで軽めの朝食をとる。昨晩、〈缶詰め〉から帰還したエリさんの分は、ラップをかけて冷蔵庫に仕舞っておけばいいだろう。
 そう思っていたら、当人が寝ぼけ眼で起きてきた。パジャマ代わりの大きめのTシャツ。少しも崩れていないシルエット。真っ白な太股が陽光を浴びて輝いている。

「おはよう、駿介」
「エリさん、だらしない格好はやめてよ」

 低血圧なので、トロンとした表情。毎朝、決まってハグをして、ノーブラの胸を押し付けてくるのだ。無意識とはいえ、息子のリビドーを刺激するのはやめてもらいたい。

「このルーティーンはもうやめてよ。ほら、僕も健康な男子だし」
「何を照れているのよ、この子は。ただのスキンシップでしょう」

 エリさんは聞く耳をもたない。とことんマイペースなので、半ばあきらめている。でも、今朝は少し抵抗を試みる。

「一方的なスキンシップは、すでにスキンシップじゃないよ」
「何て贅沢ぜいたくなこと言うの? 私が女神様ならばちを当てるわよ」

 いやいや、エリさんは女神様じゃないでしょ。女神様はもっと、思いやりがあるでしょ。
 あと、どれぐらい、こういったやりとりを繰り返すのだろう。いいかげん、子離れしてほしい。
 エリさんが食事をしている横で、僕は自分のカップと皿、調理器具を手早く洗ってしまう。エリさんはコーヒーを飲み干すと、人心地ついたらしい。

「うーん、やっと今年の仕事はこれで一段落だよ」
「なら、書斎の整理整頓を頼むね。あそこはエリさんの担当だから」

 去年みたいに、ゴミ回収の年内最終日をすぎてから大掃除なんてのはゴメンだ。 

「エリさん、わかったの?」
「はいはーい」

 言うだけムダか。そう思いながらも、つい言ってしまう。

「いつまでも、僕がいると思ったら、大間違いだからね」濡れた手をタオルで拭いながら、もう一押しする。「僕が就職して、もし地方勤務になったら、エリさん、独りきりになるんだから。今のうちから、習慣づけておかないと」
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