純情 パッションフルーツ

坂本 光陽

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 久し振りに聞く名前だ。
「駿介、真中さんを覚えている?」
 僕はコクンと頷いた。真中さんというのは、真中桐人まなかきりひと。僕から見れば、父方の祖父にあたる。
 
 セントラル重工業の社長だ。ワンマン経営者の相貌は、ビジネス番組の対談やテレビニュースなどで拝見している。
 親戚の間柄だけど、実際に会ったのは、幼い頃、ほんの数回だけ。当時、僕の抱いた印象は、怖そうなお祖父ちゃん。口をへの字に曲げた仏頂面は印象的だったので、とてもよく覚えている。

 僕はエリさんに疑問を問いただす。
「ねぇ、何だって、今更。父さんの葬式以来だから、十数年以上も疎遠だったんでしょ?」
「そうね。私が父さんと結婚する際、大反対をされて、随分もめたからね。でも、駿介の養育費はいただいていたし、決して関係を絶っていたわけじゃないのよ」

 でも、今になって、なぜ。
「さっき、エリさんは言ったよね。『将来の選択肢は多い方がいい』って。ということは、先方の話って僕の就職がらみなの?」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。私は何も聞かされていないの。真中さんは直接、駿介に話したいからって」

 エリさんは『とりあえず、電話をさせてくれ』と言われたらしい。電話番号の書かれたメモを受け取ると、自分の部屋に戻った。
 大企業の社長に電話をかけるのか。緊張するし、気が重い。

 でも、厄介ごとは素早く済ませるに限る。夏休みの宿題と同じだ。
 僕は深呼吸をして、スマホを手にした。電話に出たのは、若い女性だった。社長のスケジュール管理は秘書である彼女のお仕事らしい。

「それでは、そちらの御都合のよい日時をお聞かせください」
「いえ、僕の方が時間は自由です。真中社長の御都合に合わせますよ」

 事務的なやりとりの後、僕は明日の夕方、恵比寿にある本社にうかがうことになった。
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