いきなり最終話(クライマックス)

アルファ・D・H・デルタ

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無垢なる存在

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ベータは自分が、人間の世界において非常に危うい存在だと自覚していた。



ルクレシアから借り受けた予知能力で視える未来は、このまま何も手を打たなければ確実に起こる、確定事項だ。



そして、ベータはまだその能力を完璧にコントロールできてはいなかった。



例えば、何気ない会話の途中で、ふとした拍子に相手の未来が視えてしまう事が多々あった。



その時に動揺して色を変えたり、言葉を発する事によってボロを出したとしたら?

そして、もし相手がベータの態度を不審に思い、意図せず行動を変えた時は?



おそらく、その時にはベータにすら予測不可能な未来が新たに生まれてしまう。



その不確定要素を出来るだけ排除する為に、ベータはルクレシアからこの予知能力を借り受けた時から、ずっと、努めてポーカーフェイスを心掛けていた。

自分の発言にも細心の注意を払っていくうちに、やがてベータは不愛想で無口な自分を貫くことになっていった。



そのベータが、カナに笑いかけた。



アルファは久しぶりに見る妹の心からの笑顔に少しホッとした気分になった。



実はベータは相当無理をしていると、アルファは気付いていた。





本当は泣きたいときもあっただろう。

弱音を吐きたいときもあっただろう。



そんなベータが微笑んだという事は、おそらくもうすでに、ポーカフェイスも無口な態度も取る必要が無い程に、カナにもカナタにも…いや、誰に対しても、自分の考えを隠す必要が無くなった、と判断したのだろうとアルファは理解した。





そしてベータの言葉に頷いたカナは二人に再び笑顔を向けていた。



「魔王はね。そもそも、無垢な存在よ。おそらくギルゴマによって、この世界の人々の魔王に対する負の感情を植え付けられているだけ。そして、ただ自分向けられているその負の感情に怯え、自分の身を守るために、力を使っている。ギルゴマはその力を利用しているのよ」



カナはハッキリと断言した。



「無垢な存在?」



アルファはそれを聞いて咄嗟に小さな子供の姿を思い浮かべた。



「そう、この子は善悪すらも理解していないの。ただ怯えて自分の身を守っているだけ。でも地球で召喚された時に、一番近くにいた私を無条件で頼った。私に救いを求めていた。私はそれに応えようとした。だからこの子は私だけは味方だと思っている」



カナはアルファを安心させるために、魔王にはこちらを害するつもりなど無いと説明した。



「もう時間がないわ。転移魔法陣が閉じてしまう。さあ、二人とも行って」



そう言ってカナは魔瘴気が立ち込める奥へと向きを変えた。



しかし、最後に振り返って二人に言った。



「カナタの事、よろしくお願いします」



そう言って頭を下げ、そして単身、再び地下遺跡の奥へと走って行った。





「行ってしまったわね…」



アルファが少し力の抜けた声で呟いた。



「大丈夫、カナは自分の役割をちゃんと果たす」



ベータがアルファを励ますように言った。



「…もしかして、視えたの?」



アルファがベータに問い掛けた。



「視えた」



ベータは頷きハッキリと断言した。



「そう、なら心配は無用ね」



アルファは安心したように言った。



「彼女は自分の役割を果たそうとしている。ならば私達も役割を果たすべき」



そう言ってベータは魔法陣の上に乗った。



「あ、ちょっと待ちなさいよ。ベータ!」



アルファもまた、ベータを追いかける形で召喚陣に乗った。



「それにしても、彼女の言い方だと、おそらく魔王の正体は幼い子供のようね」



アルファが誰に聞かせるともなく呟いた。



「少し違う。魔王は…」



ベータが言葉を発しようとした時、召喚陣が眩い光を発して発動した。



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